ヒトの染色体は線状であるが、ある種のがんでは高頻度で環状染色体が見つかる。また、先天的に環状染色体を持つ遺伝病患者は、がんのリスクが高い。本研究の目的は、分裂酵母とヒト培養細胞を用いて、環状染色体の安定性制御に関係する新規遺伝子や新規薬物を発見し、それらの因子の機能や作用機構を解明することとした。 本年度は、分裂酵母pot1とbdf2が合成致死になる機構を解析した。まずBdf2の温度感受性株を作成した。Pot1破壊株のバックグラウンドでBdf2の遺伝子にランダムに変異を導入し、25度では、生育可能だが、36度にすると生育不能あるいは極端に生育が低下するpot1 bdf2二重変異株を取得した。取得した二重変異株の表現型を詳細に解析することで、pot1 bdf2二重変異株がなぜ合成致死になるのかを解明した。 また、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物の解析については、アントラキノン骨格を有する候補化合物がインビトロでトポイソメラーゼ2を阻害することや、DNAにインターカレーションすることを発見した。また、アントラキノン骨格を有する候補化合物を加えたときのpot1破壊株の表現型を詳細に解析することで、アントラキノン骨格を有する候補化合物が環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害する機構を解析した。 環状染色体を持つヒト細胞株については、これまでの研究で得られた遺伝子のヒトホモログを阻害する薬物の添加で、環状染色体を持つヒト細胞の生育を特異的に阻害するかどうかを解析したが、ヒト細胞の環状染色体の安定性に影響を与える可能性のある有望な候補化合物は得られなかった。
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