研究課題/領域番号 |
17K07503
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤原 学 九州大学, 理学研究院, 助教 (70359933)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 行動可塑性 / 性的成熟 / 化学走性 / イメージング / グアニル酸シクラーゼ |
研究実績の概要 |
本研究課題は、線虫C. elegansの性的成熟に伴う神経回路の再編の機構を明らかにすることを目的としている。これ以前の解析から、線虫では生殖細胞が増殖して性的な成熟が起こると匂いへの走性行動が変化すること、その機構として嗅覚ニューロンAWAとその下流の介在ニューロンAIAとAIBが構成する神経回路の活動が生殖細胞増殖に依存して亢進することをあきらかにしていた。 今回、この回路の再編に関わる分子としてグアニル酸シクラーゼGCY-28を新たに同定した。GCY-28の変異体では、性的成熟に伴う匂いへの行動変化が正常に起きないことが分かった。また、AIA細胞特異的な野生型gcy-28遺伝子の発現で変異体の表現型が少なくとも一部回復した。さらに、gcy-28変異体でAIB神経の活動を測定したところ、生殖細胞の増殖に依存して起こる活動変化が見られず、生殖細胞が欠損していても生殖細胞増殖時と同様の活動を示すことが分かった。これらのことから、回路の再編にはAIA細胞でGCY-28タンパク質が働くことが重要であること、また、生殖細胞が増殖していない時にはGCY-28によってAIB神経の活動が抑制されていることが示唆された。GCY-28は膜貫通型のcGMP合成酵素だが、これがどのように神経活動の抑制に関わっているかはまだ不明である。AIA神経でのGCY-28の局在をGFP融合タンパク質を作製して詳細に調べたところ、軸索上のギャップ結合部位に比較的局在が強く見られた。現在、これを手がかりに回路再編におけるギャップ結合の役割を調べている。 さらに、回路の再編によって回路での情報の流れがどう変化しているかを調べるため、光遺伝学による解析系を現在セットアップしている。チャネルロドプシンなどをこの回路で発現させた遺伝子改変線虫を作製したので、光照射の条件検討を行っている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと予定していたのはスクリーニングで得られた正常な行動変化を示さない変異体の原因遺伝子のマッピングであったが、なかなかレスキュー実験が成功せずクローニングが難航している。こちらも引き続き行いながら、既存の変異体の中から回路再編に関わるものを探す手法でGCY-28がこの制御に必要であることを明らかにできたので、全体の進行はおおむね順調とした。また、予想していなかったギャップ結合の関わりが示唆されたのも、今後の解析の手がかりとして重要ではないかと考えている。また、光遺伝学の手法を取り入れた回路機能の解析系を一部は立ち上げることができたので、これからの解析に効力を発することを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
グアニル酸シクラーゼGCY-28がどのように回路再編に働いているのかを調べる。ギャップ結合の構成タンパク質イネキシンの遺伝子が線虫には26個存在するが、これらの変異体を利用して回路再編に関わっている可能性のあるイネキシンを探索する。また、生殖細胞の増殖時と非増殖時では回路の信号の流れにどのような変化があるのか、光遺伝学の手法で人為的に神経を興奮させたときの下流の回路の出力を調べて比較する。また、原因遺伝子が未同定の走性変化を示さない変異体のマッピングも続け、原因遺伝子の同定を目指す。さらに、成長に伴う神経回路の再編がどのように起きているのかを明らかにするため、幼虫での神経活動のカルシウムイメージングの測定系確立に着手する。これらにより、生殖細胞の増殖によって神経回路でどういう変化が起きているのかを、分子レベルと細胞ネットワークレベルで明らかにできると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
線虫の行動測定に使用するPDMSチップの設計と製造が予定より時間がかかり、次年度での発注となったため。
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