2017年度の本研究の開始以降、神経活動イメージングと行動測定、またトランスクリプトトーム解析も組み合わせて次のことを明らかにすることができた。 まず、回路の再編に関わる分子としてグアニル酸シクラーゼGCY-28を同定した。GCY-28の変異体では、性的成熟に伴う匂いへの行動変化が正常に起きないことが分かった。この変異体のAIB神経の匂い応答を測定したところ、生殖細胞の増殖が起きていない個体でも生殖細胞の増殖した個体同様に匂い刺激時に応答が見られることが分かった。さらに、GCY-28はAIA介在神経で発現することが必要で、AIAの軸索上のギャップ結合部位に局在していることが明らかになった。これらの結果から、GCY-28はAIA神経のギャップ結合の働きを制御しており、それによって生殖細胞増殖に応じた神経活動の調節を行っていることが示唆された。 また、さらに解析を続けたところ、AIA介在神経とギャップ結合で結ばれているASI神経がこれらの制御に重要な役割を果たしていることが明らかになった。AIAとASI神経間のギャップ結合形成を阻害したり、ASIの神経活動を阻害すると、性的成熟に伴う匂いへの行動変化が正常に起きない。またこのとき、AIB神経の匂い応答も異常になっていることが示された。これらの結果から、ASIとAIA神経によって構成されるマイクロサーキットの働きによって、AIB神経の匂い応答性が調節される機構が明らかになった。さらに、ASI感覚神経のシングルセルRNAseqを行い、生殖細胞の増殖依存的に発現レベルが変化する遺伝子を同定することができた。これらの中には、上記の機構で重要な役割を果たす分子が含まれると考えられる。
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