研究課題/領域番号 |
17K07506
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
深町 昌司 日本女子大学, 理学部, 教授 (20323446)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 色覚 / 色盲 / メダカ / 視運動反応 / 波長感受性 / 配偶者選択 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、四色型色覚研究モデルとしての色盲メダカ系統の作出である。メダカは錐体オプシンを4種類(赤・緑・青・紫)持っており、平成31年度は、CRISPR/Cas9法により作出する緑色盲系統の生存力低下を検証することが喫緊の課題であった。しかし令和元年度の交配では、メンデル遺伝で予想される分離比の子が得られたことから、他の赤/青/紫色盲系統と同様に、緑色盲系統も生存力は低下しないと結論した。平成30年度に生存力の低下が疑われたのは、オフターゲットの影響と思われるが、詳しい原因はわからない。青色盲系統に関しては、配偶者選択と青色光感受性のデータを論文にまとめ、現在査読中である。紫色盲系統に関しては、配偶者選択のデータは取れ、他の色盲系統と同様に体色嗜好性が低下することが示されたが、波長感受性に関しては、紫外線域の行動実験(装置からの蛍光など)に困難が伴っており、光の当て方や強度を検討中である。抗紫オプシン抗体を用いた錐体モザイク構造観察に関しては、現在論文を執筆中である。赤紫、赤青、青紫の各二重色盲系統の作出が完了しており、赤青紫の三重色盲系統の作出が進行中である。 色違い系統の配偶者選択の他にも、色識別能を評価する実験系が必要になると考え、新たな手法を開発した。水槽に小部屋を2つ設け、波長の異なる単色LED光をそれぞれ照射し、メダカを自由に泳がせ、どちらの小部屋に入るかを計測したところ、多くの波長の組み合わせで、明らかな偏りが検出された。この偏りは、メダカが光を区別できることを示す(ただし、偏らない=光が区別できない、ではない)。野生型で偏る波長の組み合わせでも、赤色盲系統を使うと行動が偏らなくなることがあり、この手法でも色識別能が低下することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度までに緑色盲系統の作出を完了させたかったが、3つの緑オプシン遺伝子のうち、2つへのフレームシフト変異導入にとどまっている。また、紫色盲系統に関しては、波長感受性のデータを取り終えたかったが、光強度の微調整に困難が伴っており(強すぎると装置から蛍光が発せられ、弱すぎると野生型メダカでも感覚できなくなる)、「野生型と紫色盲で紫色光の感受性が異なる」という結論が得られていない。あるいは、もともと感受性に差が無いのかもしれないが、まだ検証の余地が残される。 一方で、緑を除いた二重/三重色盲系統の作出は、いずれも順調に完了/進行したこと、青色盲系統に関しては論文公表の目処が立っていること、色識別能を調べる新たな実験系を立ち上げることができたこと、などを総合的に勘案し、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
緑色盲系統を完成させる。現在その目処は立っており、3つある緑オプシン遺伝子のうち、2つにフレームシフトを持つ系統に対して、残りの1つに変異を導入するための処置(受精卵へのgRNAとCas9 mRNAの顕微注入)を施した成魚から子が得られており、子が変異を持つことを確認している。あとは、3の倍数以外の塩基数の挿入/欠失を持つ個体をスクリーニングし、それらをF2世代でホモ化するのみである。メダカは1世代に3ヶ月かかり、新型コロナウィルスの影響で研究活動の停滞も予測されるが、秋頃までにはホモ化を終え、表現型(配偶者選択と波長感受性)の解析に用いたい。 二重色盲系統に関しては、特に青紫二重色盲系統の解析に注力する。青色盲系統では波長感受性の低下が確認されておらず、この原因は、健在する紫オプシンと緑オプシンが、青オプシン欠損を補完しているためと思われる。そこで、青オプシンに加えて紫オプシンを失った青紫二重色盲ならば、紫オプシンによる吸光の影響も無くなり、青色光感受性の低下が確認できるだろうと考えている。赤青と赤紫の二重色盲系統は、緑の変異を更に加えることで、それぞれ紫オプシンのみ、青オプシンのみを持つ系統の作出し、それぞれ感受性のある波長域を同定する。 三重色盲系統に関しては、赤青紫三重色盲系統(緑オプシンのみを持つ系統)の作出が進行中(三重ヘテロが生育中)で、これらが成魚まで育ち次第、交配と子の飼育、遺伝子型判定を行って系統を確立する。緑色盲系統同様に、秋頃の完成を目指す。緑オプシンだけでどの範囲の波長をカバーできるか、単色光下の視運動反応試験で調べる。 単色光を2種類並べた色識別能測定実験に関しては、野生型で明らかな偏りが出る波長がわかったので、順次色盲系統を用いて実験を行い、オプシンの吸収スペクトルから理論的に予測される色識別能との整合性を調べたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに使用した端数である3,369円は、物品費(消耗品)として使用する。
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