研究課題/領域番号 |
17K07510
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
豊岡 博子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (00442997)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 異型配偶化 / 有性生殖進化 / ボルボックス系列 / 配偶子進化 / 性フェロモン |
研究実績の概要 |
本研究は、雌がつくる「卵」と雄がつくる「精子」が、それぞれ配偶子として分化した後に出会い、受精に至るまでに必須な「異性間コミュニケーション」が、雌雄の配偶子形態が未分化な同型配偶段階から進化した過程を、同型配偶・異型配偶・卵生殖という配偶子の雌雄二極化の各段階を包含する緑藻・ボルボックス系列を用いて解明することを目的とする。2019年度も引き続き、ボルボックス系列の雌雄二極化の初期段階にある異型配偶ユードリナを主な研究材料とし、性フェロモンを介した配偶子誘導についての研究を展開した。 これまでの当研究の成果により、ユードリナの精子束(雄配偶子の束)は、他個体の雄が培養上清中に放出する性フェロモンタンパク質によって誘導されることが示されており、2019年度はこの性フェロモンタンパク質の分子同定を目指した研究を行なった。具体的には、有性生殖誘導したユードリナの培養上清を、雄株(精子束誘導活性を持つ)および雌株(同活性を持たない)から回収し、限外濾過フィルターを用いてタンパク質を濃縮した後に、SDS-PAGEで展開して雄特異的なタンパク質を検出した。このタンパク質を含むゲル片を切り出し、ユードリナ全ゲノムデーターベースを参照した質量分析を外部委託にて行った。その結果、23個の候補タンパク質を検出したが、近縁の卵生殖ボルボックスの性フェロモンに類似する配列は含まれなかった。そこで、遺伝子発現に基づく雄特異的タンパク質の絞り込みとデータベースの再検討のため、ユードリナ雌雄株のRNAシークエンス解析を外部委託にて行い、現在データ解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも述べたように、2019年度、ボルボックス系列・異型配偶ユードリナにおける性フェロモンの分子同定を目指し、培養上清中の雄特異的タンパク質の質量分析を行なった。しかし現状では予想に反して、近縁の卵生殖ボルボックスの性フェロモン類似配列は検出されていない。そのため、質量分析のデータベースの再検討や性フェロモン候補タンパク質の絞り込み方法等について、研究計画の見直しが必要な状況である。 また2019年度、異型配偶ユードリナにおいて、リアルタイムPCRによる雌雄配偶子特異的遺伝子の発現定量解析を行った結果、雌配偶子に特異的な遺伝子発現は、窒素飢餓および雄由来の性フェロモンの作用により促進される傾向が見出された。そのため、効率よく雌配偶子を誘導するためには、異型配偶段階でも性フェロモンを介した「異性間コミュニケーション」が必要である可能性が示唆された。この雄由来の性フェロモンの雌配偶子形成に対する影響については、より検証を深める必要があるが、現在、所属機関の新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止上の措置により、実験を中断している状況である。 以上、研究の進展は確実にみられるものの、複数の予想外・想定外の事態に直面したため、当初の計画と比して時間を要しており、「やや遅れている」とせざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度も引き続き、ボルボックス系列・異型配偶ユードリナを用い、性フェロモンを介した配偶子誘導の解析を進めることで、雌雄二極化に伴う「異性間コミュニケーション」の進化過程解明に迫る研究を行う。まず、2019年度までの研究で示唆されている、異型配偶段階での性フェロモンを介した「異性間コミュニケーション」の存在を検証するため、引き続きリアルタイムPCRによる雌雄配偶子特異的マーカー遺伝子の発現定量解析を行う。同解析の結果と、これまで本研究にて明らかにした性フェロモンによる精子束誘導活性の解析結果を併せて論文にまとめ、本年度中に国際誌に投稿する。 また、ユードリナの性フェロモン同定についても、継続して研究を行う。具体的には、まず2019年度に行った質量分析から得られた23個の候補タンパク質について、雄配偶子特異的な遺伝子発現を示す因子をRNAシークエンスおよびqPCR解析に基づき絞り込む。同時に、さらなる候補タンパク質の検出を目指してデータベースを再構築し、質量分析の再解析を行う。以上の解析からユードリナの性フェロモンを分子同定し、ボルボックス系列における性フェロモン獲得メカニズムを推察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」でも述べたように、2019年度末からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で実験を中断したため、2020年度にも引き続きリアルタイムPCRを用いた遺伝子発現解析を実施する必要があり、そのための予算確保が必要である。ユードリナの性フェロモンタンパク質の質量分析の再解析にも予算が必要である。また現在、本研究課題で明らかにしたにユードリナの性フェロモンによる配偶子誘導についての論文を執筆中であり、同論文の投稿・掲載のための予算が必要である。
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