研究課題
本研究は、雌がつくる「卵」と雄がつくる「精子」が、それぞれ配偶子として誘導され受精するまでに必須な「異性間コミュニケーション」が、雌雄の配偶子形態が未分化な同型配偶段階から進化した過程を解明することを目的とした。そのため、単細胞モデル緑藻クラミドモナスに近縁で、配偶子の雌雄二極化の各進化段階(同型配偶・異型配偶・卵生殖)にある生物を含む緑藻ボルボックス系列を用いた。同系列においては配偶子誘導のトリガーが、同型配偶段階では環境要因(窒素飢餓)であるのに対し、卵生殖段階では性フェロモンを介した「異性間コミュニケーション」を必要とするものに転換したと考えられたため、本研究ではその中間段階にある異型配偶生物のユードリナに着目した。本研究期間に研究代表者は研究機関を異動し、ユードリナにおける配偶子誘導系を再確立した。具体的には、既存のユードリナ雌雄株を交配させ、有性生殖を活発に行う雌雄株を得た上で条件検討を重ね、雄株由来の培養上清を用いた精子束(雄配偶子の束)誘導のバイオアッセイ系を確立した。本研究ではこの培養上清に性フェロモンタンパク質が含まれることを示しており、今後この性フェロモンの分子同定することで、性フェロモン獲得の進化過程解明に寄与することが期待できる。異型配偶段階での配偶子誘導における「異性間コミュニケーション」の有無については、この段階での雌側の配偶子は、栄養細胞と形態上の区別ができないため、遺伝子発現での検証を試みた。令和3年度までに、クラミドモナスにおいて各性の配偶子で特異的に発現する遺伝子群について、ユードリナオルソログを単離し、遺伝子発現解析を行ったところ、雌配偶子特異的と推測される遺伝子群は、雌株に対して雄由来の培養上清を投与した場合にのみ顕著に発現上昇したため、異型配偶段階においても配偶子誘導には「異性間コミュニケーション」が必要であることが示唆された。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
The Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 118 ページ: e2100712118
10.1073/pnas.2100712118
Evolution
巻: 75 ページ: 2984-2993
10.1111/evo.14306