研究課題/領域番号 |
17K07514
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
湯浅 創 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (40322797)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トリプトファン分解酵素 / 比較生化学 / 分子進化 |
研究実績の概要 |
本研究は新規に開発した「祖先型配列のキメラ酵素解析への応用」により,各々のIDO 系統で,いつ,どのような(アミノ酸)置換により機能転換が起きたのかを具体的に同定する。最終的に,IDO 遺伝子ファミリー全体に対して,その分子進化の過程と生理機能の変遷の完全解明を目指すものである。 本年度は,無脊椎動物を中心に,様々な生物種のTDO/IDOの酵素活性を調べ,酵素パラメーター(kcatとKm)の比較を行った。TDOはほとんどの無脊椎動物に見られ,生物種によらず,似通った酵素パラメーター値を示す。一方で,IDOは生物種やIDO分子種により,幅広い酵素パラメーター値の分布を示した。特にカイメンの一種,Amphimedon queenslandicaが持つ2つのIDO(IDO-I,IDO-II)と,ホタテガイから見いだされた3つのIDOのうちの2つ(IDO-I,IDO-III)は,脊椎動物IDO1に匹敵する高い基質親和性と触媒効率を持つことが判明した。既出の変異導入実験により,脊椎動物IDO1の高い基質親和性と触媒効率は,F-helixの2番目の残基(F2nd)であるTyrと,G-helixの9番目の残基(G9th)であるSerによりもたらされていることが示されている(Yuasa et al. 2015 FEBS J. 282, 2735-2745; Yuasa H.J. 2016 FEBS J. 283, 3651-3661)。カイメン,ホタテガイの高触媒効率IDO間では,F2nd/G9thがTyr/Hisの組み合わせであることが共通しており,変異導入実験により,(脊椎動物IDO1と同様に)これら2つの残基が高い基質親和性と触媒効率に必須であることが示された。また,他無脊椎動物種の低触媒効率IDOにおいて,F2nd/G9thのTyr/Hisへの置換により,基質親和性と触媒効率の著しい向上が見られたことは,広くIDOの酵素特性におけるF2nd/G9thの重要性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度,繊毛虫Blepharisma IDOsの基質認識は,F-helix上に位置する基質決定残基(SDR: Substrate Determining Residue)により決定されることを明らかにし,Archives of Biochemistry and Biophysics 誌に発表済みである。無脊椎動物IDOにおける基質親和性/触媒効率に関わるアミノ酸残基(F2nd/G9th)においても既に実験は完了し,現在,論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
脊椎動物のIDO2は低触媒効率であることが知られ,生体内での生化学的機能は不明である。マウスIDO1のKm値は15.8 uMと低く(基質親和性は高い),触媒効率も高い(55.2 uM-1min-1)のに対し,マウスIDO2のKm値は約45 mM,触媒効率は0.002 uM-1min-1であり,これはIDO1の値の僅か0.004%に過ぎない。一方で,培養細胞内で発現させた場合,マウスIDO2はIDO1比で約55%もの活性を示すことが報告されている。当初は「IDO2は酵素パラメータから推測される以上に細胞内では働くようだ」との解釈から,細胞内に存在する未知の補酵素がIDO2の触媒活性を亢進させる可能性が示唆されたが,現在まで該当する物質は見つかっておらず,満足できる説明はなされていない。in vitroと細胞内で観察されるIDO1/IDO2の活性比の矛盾は「IDO2が細胞内で予想以上に働く」からではなく,逆に「IDO1が細胞内では予想ほど働かない」事に起因する可能性を考慮した。即ち,反応に伴いヘム鉄が酸化(met化)されてしまうIDO1は,細胞内の系では還元が追い付かず,ほんの一部分のみが活性を示している可能性が高い。一方,IDO2は反応速度は遅いながらも持続的な活性を示すと考えられる。その場合,鍵となるのはIDO2の自動酸化速度だと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現存の振盪培養器(平成12年設置)が,経年劣化により,培養温度を室温より低く設置するのが困難になっている。高知でも,冬場は室温を外気温に合わせることにとり対応可能だが,夏場は難しく,新規購入に充てたいと考えている。
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