研究実績の概要 |
細菌から昆虫に転移した遺伝子について系統解析を行った。これまでの知見と違いが見られた遺伝子として、bLys(lysozyme)が挙げられる。bLysは、これまでエンドウヒゲナガアブラムシの遺伝子だけが動物からは知られていた。これは細胞内共生細菌ボルバキアの遺伝子と高い相同性を示した。本研究において調べ直したところ、多くのアブラムシゲノムにコードされていることがわかった(9種中9種)。さらに、カメムシとアリにもこの細菌由来タイプ(bLys)をゲノム中にコードすることがわかった。分子系統解析はこれらの昆虫由来のbLysが複数のクラスターに分かれ、独立に水平転移により獲得された可能性を示した。一方、ボルバキアの遺伝子と複数のアリに見られる遺伝子が系統樹上で混在しており、ゲノム決定の際に混入した可能性もあるので、検討が必要である。一部のカメムシは共生細菌を腸内などに保持しており、細菌との共生に利用されている可能性がある。 AmiD(amidase), LdcA(LD-carboxylase), RlpA(レアタンパク質A)についても相同性検索を行い、複数のアブラムシから新たな遺伝子を発見した。分子系統解析の結果、これらはアブラムシ類の遺伝子が1つのクラスターを組み、アブラムシの祖先で獲得後、種分岐とともに広がったと考えられる。ただし、その遺伝子を持たないアブラムシもおり、それらではゲノムから喪失した可能性が考えられる。また、機能がよくわかっていなかったrlpAもやはりペプチドグリカンの分子の一部を切断する酵素であることがわかった。エンドウヒゲナガアブラムシで見つかった細菌由来の遺伝子がいずれもペプチドグリカンを構成する分子を切断する活性を持つタンパク質である点が興味深い。
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