研究実績の概要 |
RNAのリン酸化を行う酵素として、ポリヌクレオチドリン酸化酵素Clp1が知られている。この酵素は、主に前駆体tRNAのスプライシングや、mRNA 3'末端の形成に関わっている。Clp1タンパク質ファミリーとして一部の真核生物では、Nol9やGrc3といった酵素があり、主に前駆体rRNAプロセシングに関与している。しかしながら、Clp1タンパク質ファミリーの系統学的な分布や、その多様性は明らかとなっていない。本研究では、生物の三大ドメインであるバクテリア、アーキア、真核生物のタンパク質配列が登録された公共データベースを用いて、大規模なClp1の分子進化解析を行った。その結果、合計で3,577件のClp1関連タンパク質が検出され、その多くは真核生物やアーキアに存在したが、バクテリアには限られた種にしか存在しなかった。また、リン酸化に重要なClp1のポリヌクレオチドリン酸化ドメインは、すべてのClp1関連タンパク質に共通であり、N 末端やC末端には生物種やファミリーに特徴的なドメインが保存されていた。Clp1関連タンパク質のアミノ酸長は平均が555アミノ酸残基であったが、真核生物において1,000アミノ酸残基以上の巨大なClp1関連タンパク質を122個見出した。これらの新規タンパク質では、Clp1のポリヌクレオチドリン酸化ドメインと様々な機能ドメインが保存されており、その80%以上が真菌類や、前口動物由来のものであった。さらに、バクテリアClp1であるThermus scotoductus Clp1 (Ts-Clp1) の組換え体タンパク質を用いて、バクテリアClp1のリン酸化活性を世界で初めて実験科学的に検証した。Ts-Clp1は一本鎖RNAをリン酸化し (ATPに対するKm値: 2.5 μM)、高濃度の酵素を添加することで一本鎖DNAのリン酸化も促進した。
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