研究課題/領域番号 |
17K07520
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柁原 宏 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30360895)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生活史形質 / 進化 / 紐形動物 / 体サイズ / 浮遊幼生 / 海産無脊椎動物 |
研究実績の概要 |
2017年7月に北海道厚岸湾の無人島・大黒島の潮間帯で異紐虫類のカスリヒモムシ31個体(オス12個体・メス15個体・未成熟4個体)を採集した。得られたヒモムシの体長・体積を生時に記録し、尾端を切り取ってDNA抽出用組織標本として99%エタノール中に保存した。また、切断面の前方数センチを組織学的観察用の形態標本としてブアン氏液で固定した。隠蔽種混在の有無を確認するため、チトクロームc酸化酵素サブユニットI遺伝子658塩基を決定し、GenBank上の既知の配列とともに種境界判別解析を行ったところ、大黒島産カスリヒモムシ個体はすべてKulikovia manchenkoi Chernyshev et al., 2018と同定された。尾部切断時に得られた卵と精子を受精させて発生の様子を観察した。胚は約3日後に帽形幼生となり、10日後からナンノクロロプシス(不等毛植物門)とイソクリシス(ハプト植物門)の他、底生性のロドモナス(クリプト植物門)とキートセラス(不等毛植物門)を与え、海水の量と質(オートクレーブやろ過の有無)を変えて7回飼育を試みたところ、最長で3週間飼育することに成功した。連続組織切片から測定した卵巣あたりの卵の数は10~523個であった。体の体積と卵巣あたりの卵の数の間の顕著な相関は見られなかった。文献上で知られる異紐虫類の他種との間の予備的な比較により、卵巣あたりの卵数と体サイズの間に相関がありそうな結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目的としていた「変態までの幼生の飼育」に成功していないため。ただし、異紐虫類の種間で体サイズと卵巣あたりの卵の数との間の相関がありそうな傾向を見出している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最大の目的は、異紐虫類の浮遊幼生を変態するまで飼育することである。2017年度には厚岸産のカスリヒモムシを用いて最長で3週間飼育することに成功したが、変態の兆候である成体原基の形成は見られなかった。原因の一つはエサであると思われる。2017年度に試したエサ藻類はナンノクロロプシス(不等毛植物門)、イソクリシス(ハプト植物門)、底生性のロドモナス(クリプト植物門)、キートセラス(不等毛植物門)であった。2018年度はこれに加え、浮遊性リノモナス(クリプト植物門)を与えてみる。幼生の飼育に成功している先行研究で用いられているエサ藻類が浮遊性のクリプト植物だからである。流水環境を再現するため、幼生の飼育装置にはビーカー内の海水をアクリル板によって常時攪拌している。2017年度に飼育がうまくいかなかったもう一つの理由として考えられるのは、アクリル板とビーカーの内壁の間の隙間が狭すぎた可能性である。2018年度は攪拌用アクリル板の幅を狭くして再試行する。2017年度にはヒモムシ幼生が繊毛虫に捕食されているところがまれに観察された。2018年度は飼育に用いる海水をろ過する際に、より目の細かいフィルターを用いると同時に、海水を低温殺菌したり、海洋深層水を用いることを検討する。当初の研究計画では2018年度にはサナダヒモムシの繁殖期を突き止めるため、毎月サンプリングすることになっていたが、年度内には予備調査のため1度沖縄県国頭郡本部町の備瀬崎で採集を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初使用していたクリプト藻が底生性であることが判明し、年度内に浮遊性のクリプト藻を培養する装置が必要となったため。
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