研究課題/領域番号 |
17K07521
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菅野 良一 北海道大学, 農学研究院, 農学研究院研究員 (00648826)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 種分化 / 進化生態 / 行動生態 |
研究実績の概要 |
サッポロフキバッタは,雄交尾活力と雌交尾拒否力が地域集団間で大きく異なり,交尾における雌雄間の性的対立の結果であると考えられている.雄の交尾活力が強い集団は雌の交尾拒否力も強く,雄の交尾活力が弱い集団は雌の交尾拒否力も弱い.また,交尾活力の強い集団の雄の交尾行動は,交尾拒否力が弱い集団の雌にとってコストになる事も明らかになった.これは,交尾を巡る性的対立を歴史的にあまり経験してこなかった集団の雌は,交尾活力が強い雄に対して対抗的な適応行動を進化させてこなかったためと考えられている.2017年度の交配実験では,雄の強い交尾活力に対抗的な適応をしてきたと考えられる雌の強い交尾拒否力が,交尾活力が弱い集団雄にとってコストとなる事が明らかになった.2018年度は,本種の体色は基本緑色(以下緑色型)だが,黒色部分が非常に多い特異な体色の集団(以下黒色型)を交尾実験に用いて,色彩変異が維持されているメカニズムを検証した.これまで黒色型は狭い範囲に生息する特異な体色集団を考えられていたが,調査の結果,少なくとも北は45キロ,東は27キロの範囲で生息している事が明らかになった.緑色型と黒色型の中間型を示すような個体は見られず,何らかの隔離機構が存在する可能性が考えられた.本年度は,体色2型間の越冬卵の孵化率から交配後隔離の程度を探ると共に,交尾行動をより詳細に解析した.本種の越冬卵の最適な保存条件は不明で,同集団の雌雄でも孵化率は低い.しかしながら,体色2型間の孵化率はさらに低く,特に緑色型♂と黒色型♀の孵化率は10%を下回り,交配後隔離機構が存在する可能性が示唆された.更に,短時間の交尾繰り返す傾向がある事が明らかになった.他の集団よりも短時間で交尾が終了するため,これまでの集団間交配実験と同じ記録間隔では交尾回数が少なく見積もられてきた可能性が高く,交尾行動の映像を解析中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2017年10月より,主たる勤務場所が東京になり,研究材料や資料がある札幌と離れてしまったため,移動材料の採集・飼育,データ解析などに時間がかかり,やや遅れが生じた.. また,集団間交配時の他集団のオスからの精子輸送量の計測において,協力を仰ぐ予定だった連携研究者が育児により研究を一時中断しており,解析が進んでいない.2019年度は,主たる業務の時間外労働が大幅に増加し,その結果,解析が大幅に遅れている.
|
今後の研究の推進方策 |
サッポロフキバッタの地域集団間は,交配前隔離,交配後接合前隔離,交配後接合後隔離の進化プロセスの異なる3つの隔離機構が存在する.本種には♂XO/♀XXのXO型と♂XY/♀XXのneo-XY型の性決定システムが異なる2つの染色体レースが異所的に存在し,これまでその2レースが存在するメカニズムを探ってきた.しかしながら,外見上は大きな違いが見られない為,特に行動実験においては難しい問題が少なくなかった.本研究において,黒色型集団がこれまでの知見よりも広域に分布し,緑色型集団と接して生息する地域を複数見出す事ができた.これらの場所では,緑色型と黒色型の中間型を示すような個体は見つかってなく,この色彩2型の間には何らかの隔離機構が存在する可能性がある.これまでの性決定システムが異なる集団間の交配実験に比べ,体色による識別が容易なため,この色彩2型間の隔離機構を更に詳細に調べ,サッポロフキバッタの集団間の隔離機構解明の手がかりとする.また,緑色型♂と黒色型♀の組み合わせでは,孵化率が低い傾向がある事が分かってきた.しかしながら,本種の越冬卵の保存方法と最適な孵化条件が未だ明らかではない為,次年度は孵化幼虫から成虫に至るまでの飼育技術をより高め,黒色型が維持されているメカニズムの解明を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究以外の業務が多忙となり,本年度中の研究終了が難しくなったため,一部の解析作業などを次年度に持ち越す事とする.
|