本年度は本種の色彩変異(一般的な緑色型と特異的な黒色型)が維持されているメカニズムを検証する為,体色型間の交雑卵からの孵化率の計測や成虫の体色の確認(最終脱皮をする迄体色が不明な為)等を計画していた.しかしながら,越冬卵の保存コンディションは非常に良好だったにも関わらず,コントロールを含め1卵塊も孵化しなかった.これまでの孵化率が低い年はあったが,1卵塊も孵化しなかったのは今回が初めてだった.孵化に至らなかった理由として今冬期の低温期間が足りなかった可能性が最も高いと共に,本種は2年卵も産卵する為,本年度の春時点では卵塊の解析をせず,2022年春迄引き続き卵塊を保存し,その後に詳細な分析を行う事とした.また本年度は,緑色型雄と黒色型雌の組合せで得られた卵の孵化率の低さが,交尾活力の集団間差や隠蔽的雌選択から生じているか,あるいは体色型間に何らかの不和合性が存在するかを検証する事を目的とした交配実験も計画していた.緑色型集団をこれまで実験に用いてきた交尾活力が中程度の下川市の集団から,交尾活力が強い手稲山集団と交尾活力が弱い札幌市南区豊滝の集団に変更し,黒色型集団との交配実験を行い,交尾行動の解析と精子輸送量および孵化率を調べる事とした.交配行動の解析に用いる未交尾成虫を得る為,留萌(黒色型),手稲(緑色型),豊滝(緑色型)から80~160頭の幼虫を採集し,実験室内で飼育した.しかしながら,各集団から未交尾成虫を得て交配実験を開始した段階で,報告者の視界に異変が生じ,緊急手術及び加療が必要となった.視力がどの程度まで戻るのか,加療にどのくらいかかるのかが不明だった為,本年度は不本意ながら全ての実験を中断し,手術前に材料を処理せざるを得なかった.視力が安定していない為,秋以降に行う予定だった昨年度までのサンプルを利用した精子輸送量の計測も中断しているが,視力が回復次第再開する予定でいる.
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