研究実績の概要 |
系統学的位置が不明なカモハラギセルの系統解析を行った。カモハラギセルは高知県の鵜来島から記載された分類群で、長らくトサギセルの亜種と扱われてきた。ITSとmtDNAの約2 kbpの塩基配列に基づく分子系統解析を行ったところ、カモハラギセルはトサギセルに近縁ではないだけでなく、日本産のほとんどの種と近縁ではないことが判明した。意外なことに、カモハラギセルは中国産のSelenophaedusaの一部の種と姉妹群をなし、その外側にミヨシギセルが位置する可能性が高いことを示す結果が得られた。カモハラギセルはこれまでPliciphaedusa, Placephaedusa, Hemiphaedusaなどに分類されてきたが、属位を変更すべきであると考えられる。日本および台湾には単一の系統群に属するキセルガイ類が優占し多様化しているが、この系統に属さないミヨシギセルとカモハラギセルは地理的に離れた狭い地域に生息し、系統的にはカモハラギセルは大陸の種と近縁である。このことから、ミヨシギセルとカモハラギセルはかつて東アジアに広く分布した系統の遺存種とかんがえられる。また、カモハラギセルをトサギセルの大型個体群と同一とみなし、四国に広域に分布すると考えられていたが、この説は否定され、カモハラギセルは鵜来島および近隣地域にのみ生息する分布域の狭い地域固有種であることが判明した。特異な系統学的な位置と狭い分布域から重点的に保全すべき対象であると考えられる。
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