研究課題
江戸時代には数多くの園芸植物が作出され鑑賞の対象とされた。そのような「古典園芸植物」は現在でも栽培されているものの、消滅の危機に瀕している品種も少なくない。フクジュソウ属植物 (Adonis) は、キンポウゲ科の多年生草本で、江戸時代より「福寿草」として多くの品種が作出されてきた。この研究は、フクジュソウ属植物について分子系統学的・細胞遺伝学的・形態学的手法を用い、分類学的・系統学的実態を明らかにするとともに、古典園芸植物「福寿草」の栽培化の過程と流通を考察することを目的とした。2020年度は、染色体の観察を中心に行った。その結果、日本では2n=16の2倍体と2n=32の4倍体が北海道から九州にかけて分布し、韓国には2倍体のみが分布していることが明らかになった。核型からは、北海道の2倍体が8本の中部動原体型染色体 (m) と8本の次中部動原体型染色体 (sm) をもつ 2n=16=8m + 8smだったのに対し、日本の本州・四国・九州および韓国の2倍体は2本から4本の次端部動原体型染色体 (st) をもつ 2n=16=8m + 6sm +2st あるいは 2n=16=8m + 4sm +4stを示すことで異なっていた。4倍体については、2n=32=16m + 16 sm、あるいは 2n=32=16m + 14sm + 2stを示すものがあった。したがって、4倍体のフクジュソウは、北海道に分布する2倍体が同質倍数化したものと、本州に分布する2倍体が関与したものがある可能性が示唆された。フクジュソウの園芸品種に関しては、2倍体、3倍体、4倍体があった。核型からは中部動原体型染色体と次中部動原体型染色体からなるものと、中部動原体型染色体、次中部動原体型染色体、次端部動原体型染色体からなるものがあり、核型の違いはもととなった野生株の違いを表すのではないかと考えられた。
3: やや遅れている
この研究は、毎年野外調査を行いつつ材料を手に入れ、細胞遺伝学的解析、分子系統学的解析、形態学的解析を加えた上で、キンポウゲ科フクジュソウ属の野生種における分類学的取り扱い、および園芸品種における起源を解明しようとするものである。したがって、野外調査によるサンプルの収集が研究の成否を握っているといっても過言ではない。2020年度においても計画的な野外調査計画を策定し、サンプルを収集する計画を立てていたものの、サンプル収集を予定していた2020年3月頃より、新型コロナウィルスによる感染防止の観点から、野外調査は限定的にならざるを得なかった。その状況は現時点(2021年5月)でも変わらず、予定したサンプリングはできない状態が続いている。また、細胞遺伝学的解析は比較的進んでいるのに対し、分子系統学的解析および形態学的解析はあまり進んでいない。現在のところ、細胞遺伝学的解析について、興味ある結果が出つつあるところなので、分子系統学的解析および形態学的解析に関しても同時並行的に進める予定である。最終的には細胞遺伝学的解析、分子系統学的解析、形態学的解析の3者の結果を統合し、フクジュソウ属植物における進化・多様化、さらに園芸化に関する基礎的情報を得る予定である。
これまで、日本および韓国各地においてサンプリングを進めてきた。その結果、かなりの数のサンプルを収集することができたものの、まだサンプリングが十分でない地域が残っている。日本国内では東北から関東、中部地方であり、海外では中国・東部沿岸地域およびロシア・極東地域である。それらの地域については、2021年3月から4月にかけて採集調査を行う予定を立てていたものの、新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあり、ほとんど野外で採集することができなかった。また、古典園芸植物とされる「福寿草」の園芸品種についても、これまでにある程度は集めてはいるものの、まだ入手していない品種も多く、今後計画的・網羅的に収集する必要がある。ただし、現在の状況を考えると、今年度前期に追加のサンプリングをおこなうことは難しいことから、現在保有しているサンプルを用いて解析を進める予定である。サンプルの解析については、これまでに細胞遺伝学的解析についてはかなり進めているものの、分子遺伝学的解析、形態学的解析に関してはあまり進んでいない状況である。これまでの解析から、細胞遺伝学的解析について、北海道の2倍体(キタミフクジュソウ)と、本州・四国・九州および韓国の2倍体(ミチノクフクジュソウ、シコクフクジュソウ、Adonis pseudoamurensis)において、核型に違いがあることが明らかになってきたことから、別種とされる3種(ミチノクフクジュソウ、シコクフクジュソウ、Adonis pseudoamurensis)における遺伝的・形態的比較をおこない、分類学的取り扱いについて検討するとともに、4倍体であるフクジュソウの起源、および様々な「福寿草」園芸品種の起源について知見を収集することができるものと考えられる。
本研究の材料として用いるキンポウゲ科フクジュソウ属植物は、早春に花を咲かせることから、花の時期(3月中旬から4月)に野外調査を実施してサンプルを収集する必要がある。2020年度についても、2021年3月に日本国内およびロシア・極東で自生地を訪ねてサンプルを収集する予定を立てていた。ところが、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、屋外での調査旅行を控えるよう要請があり、長期間の調査旅行(海外調査を含む)を控える必要が出てきた。したがって、予定していたサンプル収集のための調査旅行はキャンセルせざるを得なかった。その結果、当初予定していた予算を消化することができず、2021年度に繰り越しせざるを得なくなった。もとより、必要十分なサンプルを収集するために立てた計画であったため、2020年度内に収集したサンプルは予定していたものよりも少ないものとなった。そこで、2021年度は、繰り越された2020年度の予算も使い、2020年度に予定していながら実施できなかった地域も含めて、分布域全体にわたるサンプリング調査を予定している。繰り越された2020年度予算は、その中で消化される予定である。
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