研究課題/領域番号 |
17K07530
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
戸部 博 京都大学, 理学研究科, 名誉教授 (60089604)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アンボレラ / 花 / 雌性配偶体 / 進化 / 被子植物 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、当初計画の最終年度にあたり、第一目標であるアンボレラの花が本来両性花であること、なぜ発生初期に円錐状の頂部がカップ状に変化し、内外の雄しべ間で花粉の発生段階が大きく異なるのは、長い送粉期間を確保するための適応形質であることを明らかにするための調査・観察を継続してきた。年度内には結果をまとめて論文に仕上げることを目標に、 (1)雄花に形成される雌蕊における雌性配偶体形成の有無の確認、(2)雌花に形成される仮雄しべの花粉稔性の有無の確認、 (3)雄花の開花期間(およそ1月程度と推測)を調べてきた。(3)では、形成される13~19本の雄しべのうち、外側の雄しべが花粉を飛ばし始めてから、内側の雄しべが花粉を飛ばし終えるまでの期間を開花期間として、その集計作業を進めた。 また、第二の目標であるアンボレラの雌性配偶体が9細胞10核、すなわち、その造卵器が4助細胞をもつことを明らかにするための研究を進めた。雌花はふつう4,5個の離生心皮をもつ。開花少し前から、開花したとみられる間における雌花から心皮の1つひとつを取り外し、連続樹脂切片を作成し、雌性配偶体の造卵器の発生過程を追跡した。 アンボレラのほかに姉妹群被子植物の花の形態や雌性配偶体についても調査と観察を進めた。特に、アブラナ目バティス科のBatis argillicolaをオーストラリア北部から採集し、その雌性配偶体の発生を調べた。その結果、これまで知られていないユニークな構造が明らかになった。 他に、単子葉植物ヤマノイモ目ヤマノイモ属の系統解析と属内分類、さらにフタバガキ科の染色体、特に2つの亜科のうちMonotoideaeの種の染色体を初めて観察した。これらの研究結果をまとめて論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
アンボレラの雌花の仮雄しべと雄花に稀に生じる雌しべの生殖組織の発生を調べるため、それぞれの樹脂切片の作成等、実験と観察はおおむね順調に進んでいる。ただ開花期間を調べるために準備した京都大学理学研究科付属植物園で栽培中のアンボレらの株が3株のみを残して他の株がすべて枯死してしまった。それを補うために、東京大学理学系研究科付属植物園で栽培中の雌雄の株を利用することとし、技術職員の竹中桂子さんの助力を得て、観察を続けてきた。雄花一つひとつの開花期間を写真画像で示すため、撮影した画像の解析を進めているがまだデータが不十分である。 その一方で、アンボレラの新たな雌雄株を東京大学からの移譲してもらい、特に残りの研究期間に備え、雌花の開花を待っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、研究計画にある第一目標であるアンボレラの花が本来両性花であること、内外の雄しべ間で花粉の発生段階が大きく異なるのは、長い送粉期間を確保するための適応形質であるということを明らかにするため、不足している雄花の開花期間のデータを補完し、年度内には結果をまとめて論文に仕上げる。 第二の目標であるアンボレラの雌性配偶体が9細胞10核、すなわち、その造卵器が4助細胞をもつことを明らかにするための研究を継続する。そのために、予め保存してある雌花のほか、新たに移譲を受けた雌株から採集する雌花を利用し、それらの樹脂切片を作成し、造卵器の発生を追跡する。 また、アンボレラの姉妹群における花と雌雄生殖器官の形質の研究も進める。特に、単子葉植物ショウブ科に見られる受精様式の観察、バティス科の雌雄配偶体の観察、真生双子葉植物モチノキ目モチノキ科の雌性配偶体の発生の観察を続け、完成したものは論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究対象の植物が枯死などの理由により、研究計画の遂行が遅れ、1年の延期が認められたため。次年度は、主に薬品等の物品と観察用試料作成補助に使用する計画である。
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