海洋生物の地域集団間の遺伝的分化の程度には、分散能力の違いが大きな影響を及ぼすことが明らかになっているが、日本沿岸に生育する海藻類の分散能力については未だ不明な点が多い。本研究は、褐藻ホンダワラ属藻類を対象として、地域集団間及び集団内の遺伝的多様性の違いを基にそれぞれの種の分散能力や繁殖戦略を明らかにするとともに、種間の分散能力の違いを引き起こす要因を考察することを目的とする。 具体的な研究項目は、1) 対象とするホンダワラ属藻類の採集、2) ミトコンドリアゲノムの塩基配列をもとにした地域集団間の遺伝的多様性の解析、3) マイクロサテライトマーカーの開発及びそれらマーカーを利用した集団内の遺伝的多様性の解析、4) 遺伝的多様性をもとにした分散能力や繁殖戦略の解明、及び種間の分散能力の違いをもたらす要因に関する考察,の4つである。 2020年度は、日本各地においてホンダワラ属藻類(ヒジキ、ヤツマタモク、カラクサモク、フシスジモク、キレバモク、ヒイラギモクなど)を採集し、ミトコンドリアゲノムのcox3遺伝子領域及びnad3遺伝子から16S rRNA遺伝子の間の塩基配列を決定した。キレバモク/タマキレバモクについては、日本沿岸で14のハプロタイプが認められ、ヒイラギモクについては15のハプロタイプが認められた。キレバモク/タマキレバモクとヒイラギモクは西日本沿岸で同じような分布域を示すが、遺伝的多様性や地理的遺伝構造に大きな違いは見られなかった。
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