研究課題/領域番号 |
17K07535
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
彦坂 暁 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (30263635)
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研究分担者 |
田川 訓史 広島大学, 理学研究科, 准教授 (00403577)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 無腸動物 / 共生 / 進化 / 垂直伝搬 |
研究実績の概要 |
宿主と共生体が共生関係を強めていく進化の過程で、世代ごとに共生体を取り込む「水平伝搬」から共生体を次世代に渡せるようになる「垂直伝搬」への進化は重要なステップである。本研究は、一般には水平伝搬で共生藻を獲得する無腸動物の中で、垂直伝搬を行うように進化したグループであるワミノアと、その内在性の共生藻(褐虫藻)の共生関係がどこまで緊密化しているかを調べることを目的とする。 今年度はワミノアの内在性共生藻が自由生活できるかを調べるために、ワミノアから褐虫藻を単離して培養することを試みた。またワミノアを飼育している同じ水槽に水平伝搬で褐虫藻を獲得する別種の無腸動物ヘテロケロスが生息していたため、この動物の共生藻も対照として培養を試みた。動物との共生下にある褐虫藻は鞭毛を失い、遊泳能力を持たないが、自由生活下では鞭毛を生やして遊泳する。したがって共生していた褐虫藻が動物外に取り出された時に遊泳できるようになるかは、共生藻が自由生活能力を持つか否かの初期の指標となりうる。そこでワミノアとヘテロケロスからそれぞれ共生藻を単離し、まずIMK培地と人工海水+KW21培地の2種の培地で培養し、単離された共生藻が遊泳能力を示すかを継時的に観察した。その結果、ヘテロケロス由来の共生藻は数日で遊泳を開始するのに対し、ワミノア由来の共生藻は、少なくともこの培養条件下では遊泳を開始しないことが示された。この結果はまだ予備的なものではあるが、ワミノアの共生藻がより共生生活に特化している可能性を示唆している。現在、サンゴの褐虫藻の培養方法を参考にして、より培養に適した培地がないかの検討を進めている。 また、この研究を進めていく上で、共生藻の遊泳能力を簡便に定量的に評価する手法が必要となるため、その開発も行った。この手法を用いることで、限られた時間の中でより多くの培養条件を検討できることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ワミノアの共生藻の培養ができれば、次のステップに進めるのだが、それが出来ていない。一方で、他種の無腸動物ヘテロケロスの褐虫藻は自由生活能力を示すことから、この結果は必ずしもネガティブなものではなく、ワミノアの共生藻が自由生活能力を失っていることを示しているのかもしれない。いずれにしろ、様々な培養条件を検討することが必要であり、この段階でさらに時間が必要となっている。 一方、自由生活能力を失っているという証拠は、単に試みた条件で培養が出来なかったというだけでは不十分で、最終的には、自由生活に必要な遺伝子を失っていることをゲノム解析によって示すことが必要となる。無腸動物のゲノム解析については沖縄科学技術大学院大学マリンゲノミクスユニットとの共同研究によって進めており、現在までに瀬戸内海産の無腸動物Praesagittifera naikaiensisの解析を終えたところである(Arimoto et al. 2019)。一方、ワミノアと共生藻のゲノム解析については(主に共生体と宿主を分離することが難しく、かつ褐虫藻のゲノムサイズが大きいことなどから)まだ思うように進展していない。一方、P. naikaiensisのゲノムデータはワミノアのゲノム解析の際に参照として使うことができると期待でき、この点では大きな進展があったと言える。 以上の点を総合的に評価して、「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ワミノアの褐虫藻の培養条件の検討をさらにに進める。それと平行してワミノアと共生藻のゲノム解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワミノアの共生藻の培養ができた場合の、次の段階に必要な分子生物学的実験をまだ行っていないため、そのための経費をまだ使用していない。 使用計画としては、ワミノアの培養条件の検討により多くの経費が必要となると見込まれるので、それに用いる。また培養が出来た場合には当初計画にある分子生物学的実験を進めるために用いる。加えて、ワミノアと共生藻のゲノム解析にも経費が必要となるので、これにも使用する。
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