研究課題/領域番号 |
17K07536
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
辻田 有紀 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80522523)
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研究分担者 |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
藤浪 理恵子 京都教育大学, 教育学部, 講師 (40580725)
今市 涼子 日本女子大学, 理学部, 研究員 (60112752)
山本 航平 栃木県立博物館, 学芸部自然課, 学芸嘱託員 (60806248)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 菌根共生 / ケカビ亜門 / シダ植物 / 配偶体 / アーバスキュラー菌根菌 |
研究実績の概要 |
植物は陸上化とともに菌根菌と共生関係を営んできたと考えられており、グロムス亜門の菌類と共生するアーバスキュラー菌根(AM)共生系はコケ植物や化石植物から見つかっていることから、現生の菌根共生系の中で最も祖先的であると考えられてきた。しかし近年、現生の陸上植物の中で最も基部に位置するコケ植物や化石植物から、ケカビ亜門との共生が発見され、本菌との共生も最古の菌根共生系の1つではないかと考えられるようになった。その後、これまでAM菌と考えられていたファインルートエンドファイト(FRE)がケカビ亜門共生に含まれることが明らかとなり、本共生系が陸上植物に広く存在する可能性が示唆されている。しかし、維管束植物における菌根共生の進化を明らかにする上で重要な系統的位置を占めるシダ植物に関する情報は未だ断片的である。本研究では、形態・DNA分析と共生培養系を駆使してシダ植物とケカビ亜門との共生系を解明し、陸上植物におけるケカビ亜門共生系の普遍性を探索する。 これまで、シダ植物の様々な系統において野生の配偶体を調査し、DNA分析によってリュウビンタイとゼンマイの配偶体よりケカビ亜門の塩基配列を検出した。リュウビンタイ17個体とゼンマイ98個体の配偶体を調査したところ、それぞれ7と49個体よりケカビ亜門が検出された。また、これらのケカビ亜門は塩基配列の情報により10タイプに分けられた。グロムス亜門のAM菌も同時に共生している可能性があることから、一部の配偶体ではAM菌の有無も調査したところ、供試したすべての配偶体よりAM菌を検出した。このことから、リュウビンタイとゼンマイの配偶体は、ほとんどの個体がAM菌と共生しており、そのうち4から5割はケカビ亜門とも同時に共生していると考えられる。本研究は、シダ植物の配偶体がケカビ亜門共生を行っていることを実証した初めての研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的としていたリュウビンタイとゼンマイの配偶体におけるケカビ亜門の探索は、当初の予定よりも多くの供試サンプルを収集することができた上、DNA分析もスムーズに進行した。ケカビ亜門の塩基配列が多くの個体から検出されたものの、これらのケカビ亜門は表面に付着していた雑菌で共生関係にない場合も想定される。このことから、ケカビ亜門が植物と共生する際に植物細胞内に形成する菌糸コイルを顕微鏡下で分離し、このコイルよりDNA分析を行う新たな分析方法を確立することができた。本手法を用いて一部の個体を解析した結果、ケカビ亜門の配列を検出したことから、シダ植物とケカビ亜門が共生関係にあることを強く支持するデータを得ることに成功した。また、ケカビ亜門共生は学術的にも非常に価値のあるテーマであることから、2018年9月に開催された日本植物学会第82回大会で口頭発表を行った。次に、リュウビンタイとゼンマイを分析したデータを投稿論文として取りまとめ、学術雑誌のJournal of Plant Researchへ投稿した。その後、審査が終了した原稿を修正し、再投稿を行って、現在再審査の結果を待っている状況である。 植物組織内に感染しているケカビ亜門の菌糸を取り出して培養し、共生培養系を確立することができれば、植物と菌との間の栄養移動や感染経路・形態など菌根共生に関する様々な現象を解明することが可能となる。そこで、ゼンマイおよびリュビンタイの配偶体組織より菌糸コイルを単離し、純粋培養を試みた。昨年はポテトデキストロース寒天培地上で菌糸の伸長が見られなかったことから、本年度は菌根菌や菌類の培養に用いる複数種類の培地を用いて培養を試みた。しかし、菌糸の伸長は見られず、今後は培地の種類や培養条件をさらに検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
リュウビンタイとゼンマイの配偶体を用いたケカビ亜門の探索については、投稿論文をまとめることができ、引き続き審査中の論文の受理に向けて作業を続ける。リュウビンタイとゼンマイの配偶体では、DNA分析からケカビ亜門とAM菌が同時共生していることを明らかにすることができた。しかし、ケカビ亜門とAM菌が植物組織内で混在して感染しているため、ケカビ亜門の菌糸が植物組織内でどのような菌糸構造を形成しているかについては、未だ明確な観察結果が得られていない。ケカビ亜門の植物への感染様式は、①コケ植物でみられる細胞間に壁の厚い菌糸構造を形成するなど非常に特徴的な感染様式と、②多くの陸上植物で見られるAM菌よりも細い菌糸が細胞内に侵入するFRE様式の2つが確認されている。リュウビンタイとゼンマイでは、①のような特徴的な構造は見られず、②のような非常に細い菌糸構造を一部の個体より確認した。おそらくケカビ亜門はFREとしてシダ植物の配偶体に感染していると考えられ、今後も引き続き顕微鏡観察によって感染様式を明らかにしていく予定である。 また、シダ植物とケカビ亜門の共生培養系を確立することを目標とし、引き続き植物組織より菌の単離を試みる。シダ植物より分離されたものではないが、研究機関に保存されているケカビ亜門の菌株を用いて、シダ配偶体の胞子とともに共生培養を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも多くの供試サンプルを効率良く収集することができた上、解析もスムーズに進んだことから、旅費と解析用消耗品の費用を計画より少ない予算で完了することができた。これらの予算は、次年度にメキシコで開催される国際菌根学会(ICOM10)で当該研究の成果を発表する費用に充てる。
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