研究課題/領域番号 |
17K07537
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
坂本 信介 宮崎大学, 農学部, 准教授 (80611368)
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研究分担者 |
石庭 寛子 福島大学, 環境放射能研究所, 特任助教 (00624967)
大沼 学 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (50442695)
續木 靖浩 宮崎大学, 農学部, 教授 (00236928)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 季節繁殖 / 光周性 / 温周性 / 雌雄差 |
研究実績の概要 |
本研究では、環境温度への繁殖応答に性差があるとの仮説のもと、飼育実験とRNAseqによる網羅的遺伝子発現解析を用いて、アカネズミの季節繁殖を制御する遺伝的基盤と哺乳類の繁殖期が多様化する仕組みを解明する。 これまでインキュベータを用いた繁殖誘導試験に成功していなかったが、H29年度に、異性由来の性的刺激を定期的に与えることで、雌雄ともにインキュベータ内での単独飼育時に繁殖状態を誘導できる飼育試験の手法を確立した。H30年度には、非繁殖期の光条件かつ餌と異性由来の刺激を十分に与えた条件で、環境温度を様々に変化させた時に雌雄の繁殖状態が誘導されるか検証した。その結果、オスは温度の影響を余り受けないが、メスは繁殖に不敵な温度域から好適な温度域へと温度を変化させた場合に繁殖状態が誘導されやすいことが明らかとなった。 この手法を応用して、R1年度には、一度繁殖状態を示したのちに環境温度を繁殖に不敵な温度へと徐々に変化させていくと、メスの繁殖状態は急速に悪化していくことがわかった。一方で、オスは一度繁殖状態を示すと環境温度が不適になっても、長期にわたり精子生産を継続できることがわかった。一度繁殖状態を示したのちに、環境温度の変化に伴い繁殖状態が悪化するこの反応には、雌雄ともに個体差が大きかったが、オスの方が広範な温度域で繁殖状態を維持した。これらはオスよりもメスが環境温度への応答性が高いことを示唆し、オスの方が繁殖状態に先に入り、メスの繁殖可能な期間を超えて繁殖状態を維持するという野外での観察結果を裏付ける結果である。本種の季節繁殖応答には、哺乳類の繁殖への投資の雌雄差を考慮した際に進化生物学的な視点から予測される通りの明確な雌雄差があると言える。また、宮崎集団については網羅的遺伝子発現解析のサンプリングを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度に、異性由来の性的刺激を定期的に与えることで、雌雄ともにインキュベータ内での単独飼育時に繁殖状態を誘導できる飼育試験の手法を確立した。H30年度には、非繁殖期の光条件かつ餌と異性由来の刺激を十分に与えた条件で、環境温度を様々に変化させた時に雌雄の繁殖状態が誘導されるか検証した。その結果、オスは温度の影響を余り受けないが、メスは繁殖に不敵な温度域から好適な温度域へと温度を変化させた場合に繁殖状態が誘導されやすいことが明らかとなった。R1年度は日長と環境温度に対する雌雄の繁殖応答について新たな表現型解析を進めた。 その結果、繁殖期の開始と終了を実験的にミミックした環境変化への繁殖応答の雌雄差を明確にすることができた。また、日長や環境温度の変化に対するメスの性分泌物や内部生殖器の形態の変化を調べる手法を確立した成果について2件の学会発表をおこなった。その他、R1年度は網羅的遺伝子発現解析のサンプリングも実施した。 R1年度は、豚熱とcovid-19の流行の余波のため、当初計画にあった菅平高原でのサンプリングの実施が困難になった。そのため、日長と環境温度に対する雌雄の繁殖応答についての表現型解析をより多角的に進めることで研究全体のインパクトを保てるように柔軟に計画を修正して実施した。以上のことから、本課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
宮崎集団での飼育繁殖実験ではある程度の成果を出すことができ、表現型解析は当初計画よりも進んでいる。一方で、豚熱とcovid-19の流行という想定外の状況が連続して生じたため、菅平高原でのサンプリングは一年だけしか実施できておらず、本集団個体を用いた飼育繁殖実験は遅れている。個体を飼育し繁殖させながら実験を進める必要があるため,飼育を始めてから成果が出るまでに少なくとも9ヶ月程度の時間が必要である。状況が良くなることを期待して予算は十分に残しており、より良い成果につなげるための方策として、情勢を見ながら以下の2つの選択肢を考えている。できればよりチャレンジングな(1)を実施したい。いずれにせよ、これまでの成果で論文発表が十分に可能である。このような情勢の時こそ、研究活動を継続することが重要であるため、執筆・発表を進めながら塾考して進めていきたい。 (1)宮崎集団と菅平高原集団間での繁殖応答の比較 宮崎集団と菅平高原など繁殖パターンが異なる集団間で季節的な繁殖応答の雌雄差に違いがあるかを比較することは本研究の中でも特にユニークな着想に基づくものであり、中心課題と言える。ユニークな成果の取得や今後の研究の波及効果を優先し、可能であれば、さらにもう1年研究期間を延ばして、菅平集団でも飼育繁殖実験を実施する。 (2)外部生殖器の形態変化や膣分泌物の性状変化と繁殖行動の関連性の解明 繁殖状態の変化についての詳細な観察により、当初計画よりも詳細に、外部生殖器の形態計測や膣分泌物の性状評価ができるようになった。季節繁殖を制御する環境要因の作用を調べる上で、雌雄間での化学的あるいは行動学的コミュニケーションとの相互作用が重要であることが再確認された。菅平高原からのサンプリングが難しい状況が続けば、行動とともに形態学的、生理学的なパラメータの解析を組み合わせて、この雌雄間の関係を整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では網羅的遺伝子発現解析を実施予定であり、菅平高原からのサンプリングを予定している。そのため当初計画では出張旅費と遺伝子解析に大きな予算を配分している。しかし、R1年度は先述のように豚熱とcovid-19の流行の余波のため、当初計画にあった菅平高原でのサンプリングの実施が困難になった。そのため、出張調査のための旅費と遺伝子発現解析のための外注費用の多くが未使用となった。日長と環境温度に対する雌雄の繁殖応答についての表現型解析をより多角的に進めることで研究全体のインパクトを保てるように柔軟に計画を修正して実施したため、本課題はおおむね順調に進展していると考えているが、予算については次年度使用額が生じる結果となった。先述のように、今後研究期間を延長して、菅平集団からのサンプリングを実施し、飼育繁殖実験と網羅的遺伝子発現解析を実施予定であるため、予算は全て使用する計画である。
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