本研究では、琉球列島固有のアカボシタツナミソウ(シソ科)を中心とした条件的渓流沿い植物に着目し、渓流沿いと陸域の個体群間に見られる発芽特性の違いを明らかにし、その適応的意味を議論した。アカボシタツナミソウは主に海岸沿いの低地や日の当たる石灰岩の山頂部などに生育するが(陸型個体)、渓流沿いにも出現する(渓流型個体)。奄美大島と沖縄島に生育する陸型と渓流型の個体から種子を採取し、15℃、20℃、25℃、30℃の温度条件で100日間の発芽実験を行った。陸型の種子は15℃で最も高い発芽率(92.6%)を示したが、高温になると発芽率は低下し、30℃ではほとんど発芽しなかった。一方、渓流型の種子は15℃、20℃、25℃で90%を超える高い発芽率を示し、30℃の温度条件においても70%以上の高い発芽率を示した。どの温度条件においても渓流型の種子は播種後急激に発芽した。高温時に発芽しなかった種子が生存しているかどうかを確かめるため、発芽実験終了後(100日後)に温度条件を15℃に変更し、継続して発芽の様子を観察した。その結果、100日間の実験期間中に発芽しなかった種子のほとんどが、15℃の温度条件下で急速に発芽した。このことから、高温条件下では種子の発芽が抑制されていたと考えられる。陸型の種子は高温条件で休眠し、限られた温度域で発芽する傾向を示したのに対し、渓流型の種子は、休眠せず幅広い温度条件で一斉に発芽する傾向が見られたことから、陸型は好適な発芽温度域で発芽することにより実生が生存する確率を上げていると考えられる。一方、渓流型は温度を選ばず一斉に発芽することで、いち早く根を出して固着し、水流により種子や実生が流される危険性を回避していると考えられる。こうした渓流環境に適応的な発芽戦略は初めての報告であり、成果を論文にまとめて報告した(Yoshimura et al. 2019)。
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