研究実績の概要 |
本年度当初における実施目標は、試料個体の収集、DNA配列解析、公開用(webなど)資料の準備を効果的に推進することであった。本年度は、主として奈良・和歌山にまたがる紀ノ川水系、京都府の由良川から生体試料を収集し、個体全体および種判別に特徴的な形態部分の写真撮影と、DNA抽出、標的遺伝子の配列解析へと進めてきた。標的遺伝子として、18S rNA, histone H3, COIを選んで解析し、得られた結果は順次国際データベース(GenBank, ENA, DDBJ)に登録している。これまでに、26分類群(18S rRNAを29配列、COIを4配列、H3を70配列)について登録し、さらに23分類群(18S rRNAを21配列、COIを36配列、H3を31配列)が準備中である。 現状の種判別DNAデータ(DNAタクソノミー情報基盤)を評価する目的で、奈良県東吉野村を流れる高見川から得たマスコレクション試料(未分別採取)についてhistone H3遺伝子領域を標的とするハイスループットDNAシークエンシング(次世代シークエンサー解析)を行った。その結果を用いたメタバーコーディング(生物相調査)解析によると、カゲロウ目昆虫に関するDNAタクソノミー情報に比べて、その他の水生昆虫類はデータ量が貧弱(次世代シークエンサー解析によって得られた配列のうち、参照データベース配列に登録されていないものが多数であること)であった。その一方で、histone H3遺伝子領域は、汎用プライマーによる網羅的検出能が充分に高く、今後DNAタクソノミー情報の充実が進めば、メタバーコーディングの標的遺伝子として有望であると思われた。
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