本研究は、陸水域環境指標生物種のDNA タクソノミー情報基盤の確立を目的とし、実物標本の収集とDNA 配列情報の蓄積を進めるものである。日本産水生昆虫類4目(カゲロウ、トンボ、カワゲラ、トビケラ)を主たる対象とするとともに、環境DNA解析やメタゲノム解析に出現する水生生物類を含めて解析を行った。標的遺伝子には、DNAバーコードとして広く活用されているミトコンドリア遺伝子のチトクロムc酸化酵素サブユニット1、従来から広く分子系統解析に用いられてきた核ゲノムにコードされる18S rRNA遺伝子、およびヒストンH3遺伝子を選んだ。 それぞれの生物種ごとに、可能な限り複数の標本を得てそれぞれの遺伝子解析を行った。2020年3月31日時点で、カゲロウ目12科75分類群、トンボ目8科30分類群、カワゲラ目5科11分類群、トビケラ目15科30分類群について収集済である。また、他の水生生物として、カメムシ目2科3分類群、ヘビトンボ目1科2分類群、コウチュウ目3科4分類群、ハエ目3科3分類群、ダニ目6科6分類群等を得ている。それぞれの標本を形態に基づき同定し、分類上の特徴をよく表す画像データを取得するとともに、標的遺伝子の部分配列の解析を進めている。得られた結果(画像データおよびDNA配列)は、採集情報と合わせてウェブ上で公開している。 これらの成果は、損壊標本や若齢個体等の理由によって形態に基づく種判別が困難なものをDNA情報に従って判別したり、環境DNA解析やメタゲノム解析等によって得られる配列データを特定の生物種に比定したりするための重要な参照データを提供するものである。
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