令和1年度は、前年度に引き続き1)生態学的アプローチ:多種同調産卵する場所と低頻度な場所での雑種形成の調査、2)分子系統学的アプローチ:十分なレベルでの遺伝的な系統推定による雑種性の検討、の2点の遂行を予定していた。1)については、瀬底島において多種同調性観察を行なった。本年は、5月と6月の満月がいずれも中旬過ぎの19日と16日であったためか、多くのミドリイシ属サンゴ種は5月と6月に分かれて産卵した。さらに例年とは異なり、新月から上弦の月に産卵がみられた。昨年と比較するために、前年観察対象としたトゲスギミドリイシ5群体とサボテンミドリイシ5群体の一部を採集し、屋外水槽で産卵確認をしたところ、同種内・異種間で同調性が低くばらばらに産卵した。なかには産卵せず卵を吸収した群体もみられた。このことから、瀬底島では前年度みられたような多種間同調性が高い年が時々みられるものの、やはり対象2種において種間の同調性は著しく低く、また種内の産卵にもばらつきがあることが多いことがわかった。しかし、この多種同調性の頻度を解明するためには、今後も追跡調査する必要がある。 2)については、瀬底島より採取していた対象2種およびオヤユビミドリイシ枝片を採取しDNA抽出をおこなった。今のところ、推定雑種と考えられる中間形態は確認されていない。得られたDNAの一部を用いて、MIG-Seq法によりSNP多型を検出した。得られたデータを基にPCoAおよびStructure解析を行ったところ、トゲスギミドリイシとオヤユビミドリイシに遺伝的な浸透が示されたがごく一部であった。これらは、前年度での阿嘉島でみられた3種間の強い遺伝的な浸透とは異なっていた。このことから、遺伝的浸透には種間同調性が影響している可能性がある。今後、残りのサンプルを加えて解析を完結させ、両海域の比較を行なう。
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