研究課題
前年度の実施状況から,本年度は修正したプロトコルにより,より多くの地点において多数の試料を得る必要があった.そのため,大分県,高知県,沖縄県において,試料の追加採集を行いOTUの合計を304まで増やした.DNA解析の実施はやや遅れているものの,48 OTUsについてCOIIIの分子系統解析を実施し,これらが大きく3つのクレードに分かれることを再確認した.また,各クレード内ではCOIIIのみでは種レベルのOTUが支持される樹形は得られず,より高解像度の解析が必要であることが再確認された.一方,海外研究者によるRAD-seqによるSNPs解析に供するため,180 OTUsの試料を抽出送付し,現在これらの解析中である.現状をまとめると,クマノミ類の宿主イソギンチャクは,少なくとも科レベルと考えられる3つのクレードに分かれることが判明した.これらのクレードには姉妹群関係はなく,クマノミはイソギンチャクの分化後にそれぞれの宿主イソギンチャク類との共生関係を獲得したものと考えられる.第一のクレードは,Entacmaea属の種のみから構成され,SNPs解析結果からは,少なくとも国内に2種,世界で3種が含まれる可能性が高いことが示唆された.第二のクレードは,Heteractis属のシライトイソギンチャクやジュズダマイソギンチャクからなるクレードであり,これらは現在認識されている種よりも細分される可能性が高い.第三のクレードはハタゴイソギンチャクやアラビアハタゴイソギンチャク,イボハタゴイソギンチャク,センジュイソギンチャクからなるクレードで,従来前3種がStichodactyla属,後1種は第二のクレードに含まれるHeteractis属の種である.このことから,従来の科の再編に加え,属レベルでも分類の再編が必要であることが判明している.
3: やや遅れている
採集した試料からのDNA抽出がやや遅れており,これまでに採集した全試料を利用した解析に達していない.また,一般的にDNAバーコーディングにおいて用いられるミトコンドリアDNA,核DNAの部分配列による解析では,科レベルのクレードの検出は可能であった.一方,これまでの解析結果からは,仮にバーコンディングや一般的な系統解析に用いられる部分延期配列では,解析領域数を増やしたとしても,信頼性のある種レベルの解像は難しいことがが予想された.種レベルのOTU検出には,SNPsあるいはUCEsを用いた解析が望ましいが,現時点でこれらの解析は海外の共同研究者の研究進捗に委ねられている状況である.
作業の遅れている試料からのDNA抽出を早期に完了させる予定であるが,新型コロナウィルスの感染拡大防止のための緊急非常事態宣言に基づき,研究施設への立ち入りが制限されており,作業の進行は極めて難しい状況となっている.また,次世代シーケンサーを用いたSNPs解析についても,本年度の追加資料の解析は同様に遅れており,現時点では結果が得られていない.今後,SNPs解析の終了している各OTU,特にサンゴイソギンチャク種群について,生態写真,外部形態の記録データ,生息地,生息深度,共生生物,その他の生態情報を解析結果に照らし合わせ,種レベルの特徴と考えられる形態・生態情報を整理し,種レベルの仮想OTUsを設定し,比較プラットフォームを構築する.また,新たな解析結果が得られ次第,これらのデータを加えて整合性を判断し,最終的には少なくとも国内の種レベルのOTUについて,その形態・生態学的特徴をまとめた識別ガイドを作成する予定である.
試料のDNA抽出の遅れにより,DNA解析にかかる試薬購入等の執行が進まなかったため.次年度は繰越分について試薬類の購入及び研究結果に基づいて必要になる追加試料収集のための旅費ににより使用する予定である.
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Molecular phylogenetics and evolution
巻: 139 ページ: 106526
https://doi.org/10.1016/j.ympev.2019.106526