研究課題
採集標本に基づく記載分類学的成果として,沖縄県の海底洞窟から得られた新種,また海底洞窟に産するクモヒトデ類の種のリストについて論文として発表した.熊野灘のクモヒトデ類相については,他の底生動物とともに論文としてとりまとめた(木村ほか,2018).クモヒトデ類の中でも変わった形態をもつOphiambix属に新種を見いだし,同属の他種と骨格構造を比較し記載論文としてまとめる準備作業を行った.タイから得られたクモヒトデ類については種のリストを作成し,少なくとも1種の未記載種と1種のタイ新記録種を認めている.広域に分布する種の中には,隠蔽種の存在が示唆されてきていたため,正しく種を認識するために,問題となっているいくつかの分類群について,COI,16Sの配列に基づき分子系統地理学的な解析を実施した.ニシキクモヒトデについては,東南アジアから高知までの個体と,和歌山や相模湾からの個体との間で系統的な差が検出された.キヌガサモヅルについては,これまでに解析されていなかった北海道南東部より得られた個体を解析し,東北沖に分布する個体と同種であることが確認された.クラゲに共生しているクラゲノリクモヒトデについては,日本と東南アジアの個体間で遺伝的に交流があり,同一種であることが確かめられた.X線マイクロCTによる観察については,これまでに東京大学総合研究博物館と共同で観察を進め,解析に必要となる14科84種の観察を実施した.その結果,従来は解剖でしか観察ができなかった内部の骨,特に口を形成する囲口板の数や歯板・口板の盤内部における形態を全てにおいて観察できた.系統との関係において形態を比較することにより,様々な骨片の形質の進化的な保存性について分析を行うための基盤を築くことができた.
2: おおむね順調に進展している
標本の収集については,様々なプロジェクト研究によって,新たに,紀伊半島周辺,沖縄周辺海域,相模湾から伊豆諸島,タイ,マレーシアよりクモヒトデ類標本を採集した.標本の分析もほぼ予定通り進められている.本研究の要であるマイクロCTによる形態観察については,東京大学総合研究博物館の協力を得ることができ,データ収集を行っているところである.国立科学博物館筑波研究地区への新たなX線マイクロCTの導入を進めることもできた.研究過程で得られた結果について,今年度も学会発表は順調にこなしており,一部の成果は研究論文として公表することができた.
分子系統解析については,特に,問題がありそうな分類群において,今年度も配列データの取得を継続する.データの分析を随時行うことにより,途中結果をみながら分子系統解析を進めていく.マイクロX線CTによる骨格の形態観察については,昨年度に引き続き東京大学総合研究博物館の協力を得て進めるとともに,国立科学博物館でも観察を実施できる可能性が高い.これまでに集めてきたでデータを系統データと比較することにより,様々な形質の進化的保存性についての議論を深める.本年度は,第10回ヨーロッパ棘皮動物学会議,他において,これまでに得られている一部の成果を発表する.
(理由)採集した標本の国立科学博物館への搬送に予期せぬ遅れが生じ,予定していた標本の分析の一部ができなかったため次年度に行うこととした.そのための消耗品を次年度に購入することとした.(使用計画)当該標本は本年度分析予定の標本と合わせて,予定しているマイクロCT等による形態観察データの取得を行う.
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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