研究課題/領域番号 |
17K07550
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 誠治 北海道大学, 農学研究院, 農学研究院研究員 (00467086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 行動生態 / 親による子の保護 |
研究実績の概要 |
親による子の保護とは「子供の生存率を高めると予測される親のあらゆる性質」を指す。特に近年、両親の子への給餌に関して、給餌を巡る雌雄および親子間の対立という観点からの研究が進展している。本研究は両親が幼虫に給餌するモンシデムシを材料とし1)雌雄の関係がオスの給餌量に与える影響、2)幼虫の餌請いが親、特にオスの給餌量に与える影響、3)防衛の必要性がオスの給餌量に与える影響、を明らかにすることでオスの給餌量がどの家族関係に影響されるかを進化的に理解することを目的としている。 モンシデムシはオスの方がメスよりも巣の防衛にかける時間が長く、また激しく争う。その際に触角や足の一部を失うこともよくある。敗北し、体の一部を失ったオスがどのように行動を変化させるかを調べるため、29年度はオスを2匹同じ容器に入れ、2匹が争い勝敗がはっきりした瞬間にハサミで敗者の触角を切断する。これは人為的に敗北して体の一部を失った状態を再現するためである。その後、無傷の勝者と傷ついた敗者の交尾行動や育児行動を記録し、その変化を見た。傷ついたオスはそうでないオスに比べ交尾の試行回数が増加したが、交尾に成功した回数は有意には増加しなかった。また、傷ついたオスは巣の防衛や給餌に費やす時間が増加した。この結果から闘争で体の一部を失うコストを補うために配偶・育児行動に多く投資することが示唆された。興味深いのは傷ついたオスとつがったメスは給餌回数を減らすことがわかり、これが何を示すのか30年度も継続して調査するつもりである。 また、野外における競争の激しさと、オスの繁殖成功の測定のため野外に繁殖用の死体を設置したが、最初の実験設定があまりよくなく、途中で方法を調整したが、この時点で繁殖期が終わりかけており、サンプル数は充分と言いがたい。手法は確立したので、30年度に必要数のサンプルを集める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
野外における競争の激しさと、オスの繁殖成功の測定のため野外に繁殖用の死体を設置したが、最初の実験設定があまりよくなく、充分なサンプルを得られないことがわかった。途中で方法を調整し、今度は良好な結果が得られたが、この時点で繁殖期が終わりかけており、サンプル数は充分と言いがたい。手法は確立したので、30年度に必要数のサンプルを集める予定である。 当初29年度に実施する予定であった競争者の存在の有無に伴う、親の給餌頻度の変化の調査を翌年に回し、29年度は競争に敗北したオス親の給餌と行動の変化の調査を先に行った。こちらは順調に進行したが、傷ついたオスとつがったメスは給餌回数を減らすという、予想外であるが興味深い結果が得られたため、これを掘り下げる必要が生じた。 30年度は29年度の継続事業と新規調査を平行して行う事となる。しかし、これは予定が当初の期間中に完了しなかっただけで、成果は予定以上に得られているため、遅れているというよりさらに深く掘り下げる必要が出て来たと解釈している。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は競争者の存在の有無やメスの行動か幼虫の行動など、どれがオスによる給餌頻度に大きな影響を与えるか調べる予定である。今回オスの闘争のコストが配偶・給餌行動に影響することが明らかになったように、さらなる調査によってオス-メスの関係、親と子の関係を独立に調べただけではわからない間接的要因をも明らかにしようと考えている。 また、競争が給餌行動に大きな影響を与えることが示唆されたことで、オスはどの程度競争にさらされているのかがより重要となる。29年度で確立した、野外で繁殖した親と幼虫を確保する方法を用いて、分子マーカーを用い、死体上にいる幼虫のうち、オス親の子である幼虫の比率を求め、これを繁殖成功の指標とする。この実験の準備を行い、結果をある予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
野外における競争の激しさと、オスの繁殖成功の測定のため野外に繁殖用の死体を設置し子育て中の親子を収拾する予定が、最初の実験設定があまりよくなく、充分なサンプルを得られなかった。その結果、そのサンプルを用いて分子マーカーを用いた実験を行えず、次年度に繰り越して行う事にした。サンプルを効率的に集めるための実験方法は確立したので、次年度は成功すると考えている。
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