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2018 年度 実施状況報告書

フェノロジカルミスマッチの発生メカニズムと送粉系機能への影響評価

研究課題

研究課題/領域番号 17K07551
研究機関北海道大学

研究代表者

工藤 岳  北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (30221930)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード気候変動 / フェノロジカルミスマッチ / 高山生態系 / 送粉系 / ポリネーター / 開花時期 / マルハナバチ / 雪解け時期
研究実績の概要

北海道大雪山系の黒岳、赤岳、ヒサゴ沼調査地に設置したプロットで、高山植物群集の開花フェノロジーモニタリング調査を継続した。また、調査地周辺部においてマルハナバチ類の訪花頻度ならびに種構成の調査を定期的に行った。調査地に設置した気象ステーションによる気温、日射、降水量の計測ならびに、多数地点に設置した温度ロガーによる地温ならびに地中温度の計測を行った。さらに、調査地に設置した自動撮影カメラによる雪解け進行パターンならびに主要種の開花フェノロジーを記録した。また、開花時期の変動が結実率と種子食害率に及ぼす影響を明らかにするために、ハクサンボウフウ(セリ科)の調査を開始した。雪解け時期が異なる9個体群で開花、結実、種子の被食率の調査を行い、開花時期変異は受粉成功のみならず食害昆虫による被食圧にも強く影響することが示された。
これまで大雪山で蓄積されたモニタリングサイト1000の蓄積データに関して、高山植物群集の開花フェノロジーとマルハナバチ類の訪花活性季節性の経年変動の解析を行い、気象環境との関連性について分析した。その結果、高山植物群集の開花フェノロジーは気温よりも雪解けの進行速度の影響を強く受けることが判明した。特に、雪解けの遅い場所に成立する雪田植物群集の開花時期は年度間で大きく変動し、雪解けの早い年には地域全体の開花期間が大きく短縮されることが示された。一方で、マルハナバチ類の季節活性パターンは植物群集フェノロジーに比べて年変動が小さいが、活性ピーク時の個体密度は年度間で大きく変動することが示された。さらに、高山植物群集の開花ピークとマルハナバチの活性ピークの季節的なずれ(フェノロジカルミスマッチ)は、雪解けの早い温暖な夏に生じやすいことが示された。
以上の解析結果は、学会などで発表すると伴に論文としてまとめ、複数の学術誌に投稿中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

大雪山の長期モニタリングサイトでの開花フェノロジーとマルハナバチ類の季節活性を、本年度も継続して収集することができた。これまでのモニタリングサイト1000の蓄積データをデータベース化し、解析に着手した。これまでの解析により、高山植物群集の開花フェノロジー変動を引き起こす要因について明らかにすることができ、将来の気候変動によって高山生態系の開花構造がどのように変化するのかを予測する解析準備が整った。また、開花フェノロジーとマルハナバチ類の季節同調性の脆弱性を数値化することができた。
マルハナバチ類と開花時期とのフェノロジカルミスマッチは、生育期後半に開花ピークとなる雪田植物群集の開花時期の年変動によって引き起こされることが判明した。雪田植物群集のフェノロジー変動は、単なる気温への応答ではなく、雪田の雪解け時期が強く作用していることが示された。気候変動に対する同調性の脆弱性はマルハナバチ種によって異なり、高山帯だけで生活サイクルを完了しているエゾオオマルハナバチよりも、季節的に高山帯を利用しているエゾヒメマルハナバチやエゾナガマルハナバチでミスマッチの危険性が高いことが示された。以上のように、今年度の調査と解析により、高山生態系で送粉系のフェノロジカルミスマッチが生じるメカニズム解明に大きく近づいたと評価できる。

今後の研究の推進方策

大雪山調査地におけるモニタリング調査を継続する。また、開花時期の年変動が送粉成功度と種子被食圧に及ぼす影響調査を継続し、高山植物の実際の繁殖成功が送粉プロセスと被食プロセスのバランスでどのように適応度に作用するのかを評価する。また、今年度構築したデータベースの解析を継続し、高山生態系におけるマルハナバチ類と開花時期とのフェノロジカルミスマッチ発生メカニズムの解明に取り組む。
高山生態系での解析に加えて、低地の森林生態系においてもマルハナバチ類と林床性春植物のフェノロジカルミスマッチについて調査と解析を行う。高山生態系では、生育期の後半にミスマッチが生じやすいことが判明しつつあるが、低地の北方林生態系では雪解け直後の生育開始期にフェノロジカルミスマッチが起こりやすいことが申請者の研究によって示されている。しかしいずれの生態系においても、フェノロジカルミスマッチを駆動する要因は、雪解け時期の変動である。雪解け時期の変動が昆虫と植物のフェノロジーに及ぼす影響を、長期観察データと微気象データを解析することにより解明し、フェノロジカルミスマッチの発生メカニズムについて生理学的な観点から説明する。
一連の調査と解析から得られた知見は、随時国内外の学会やシンポジウムで発表すると伴に、学術誌への論文発表、一般向けの著作物として公表していく。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)

  • [国際共同研究] UiT-The Arctic University of Norway(ノルウェー)

    • 国名
      ノルウェー
    • 外国機関名
      UiT-The Arctic University of Norway
  • [雑誌論文] Variations in ramet performance and the dynamics of an alpine evergreen herb, Gentiana nipponica, in different snowmelt conditions2018

    • 著者名/発表者名
      Kawai Yuka、Kudo Gaku
    • 雑誌名

      American Journal of Botany

      巻: 105 ページ: 1813~1823

    • DOI

      10.1002/ajb2.1186

    • 査読あり
  • [雑誌論文] ポリネーターの生息地保全と花資源の重要性2018

    • 著者名/発表者名
      工藤岳
    • 雑誌名

      グリーン・エージ2018

      巻: 45 ページ: 2~3

  • [学会発表] 送粉系におけるフェノロジカルミスマッチの起こり方2019

    • 著者名/発表者名
      工藤岳
    • 学会等名
      日本生態学会第66回全国大会
  • [学会発表] 種子生産の変動が林床植物の個体群動態に及ぼす影響:エゾエンゴサクを用いた播種実験2019

    • 著者名/発表者名
      川合由加・平野里佳・工藤岳
    • 学会等名
      日本生態学会第66回全国大会
  • [学会発表] 北海道におけるコケモモの繁殖システムと形態特性の生態型変異2019

    • 著者名/発表者名
      和久井彬実・工藤岳
    • 学会等名
      日本生態学会第66回全国大会
  • [学会発表] 同所的に生育するエゾイソツツジとヒメイソツツジの繁殖・形態特性の比較2019

    • 著者名/発表者名
      塩谷悠希・工藤岳
    • 学会等名
      日本生態学会第66回全国大会
  • [学会発表] マルハナバチの訪花パターンは何によって決まるのか? 開花量と種間作用2018

    • 著者名/発表者名
      柴田あかり・工藤岳
    • 学会等名
      第48回種生物学シンポジウム

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公開日: 2019-12-27  

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