研究課題/領域番号 |
17K07554
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
及川 真平 茨城大学, 理学部, 准教授 (90400308)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 窒素固定 / 窒素回収 / マメ科植物 / 根粒 / タンパク質 / 種間比較 |
研究実績の概要 |
マメ科植物と非マメ科植物の窒素回収能力を比較するため、5月から11月にかけて野外調査を行った。対象種はそれぞれ26種、合計52種とした。マーキングした葉が予測外の事故(食害、除草剤散布等)により失われたが、最終的に合計48種のデータが得られた。この調査は今後2年間継続する予定だが、現時点で得られたデータから以下のことがわかった:窒素回収能力は非マメ科植物に比べてマメ科植物で低い、すなわちマメ科植物は枯葉により多くの窒素を残す。ただし、このグループ間差よりも、各グループ内における種間差のほうが圧倒的に大きい。これは、窒素固定の有無が窒素回収能力の強力な説明要因ではない可能性を示唆している。 窒素固定を行わないとされるジャケツイバラ亜科の数種について、夏季に野外で根の観察を行った。いずれの種でも根粒の形成は確認されなかった。これらの種のうち、種子が採取できたものについては、冬季に温室内で栽培し根の観察を行った。ここでも、根粒の形成は確認されなかった。 上記の野外調査で得られた結果から、マメ科植物と非マメ科植物の窒素回収能力を代表する(それぞれの平均値に近い値を示した)種を3種ずつ選出し、十分に老化した葉のタンパク質組成を調べた。まず、可溶性の違いを利用してタンパク質を3つに分離し、ニンヒドリン呈色反応でそれぞれを定量する方法を確立させた。しかし、分離が必ずしも成功していないと思われる試料があった。その原因究明と解決が、次年度の課題として残った。 次年度以降に実施予定の実験に用いるカワラケツメイの種子を野外で採取した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「マメ科植物は高い窒素回収能力を進化させてこなかった」という仮説を多種を対象とした野外調査によって検証すること、そしてマメ科植物と非マメ科植物の窒素回収能力の差を裏付けるメカニズムを解明することである。現時点で研究開始から1年が経過した。これまでに、マメ科植物と非マメ科植物それぞれ24種、合計48種について野外調査を行い、窒素回収能力を測定した。この調査は今後2年間継続する予定だが、これまでに得られたデータから以下のことがわかった:窒素回収能力は非マメ科植物に比べてマメ科植物で低い、すなわちマメ科植物は枯葉により多くの窒素を残す。ただし、このグループ間差よりも、各グループ内における種間差のほうが圧倒的に大きい。これは、窒素固定の有無が窒素回収能力の強力な説明要因ではない可能性を示唆している。 初年度から十分な種数を調査対象にすることができたのは、昨年度までの予備調査の成果といえる。また、当初の計画通り、系統関係を考慮した解析を行うことができた。以上のように、野外調査は順調に進んでいる。 枯葉の窒素濃度の種間差が、分解性の異なるタンパク質の組成比の違いで説明できるかどうかを検証するため、タンパク質組成を分析するシステムを整えた。実際に6種の植物の葉を用いて分析を行い、分析が可能であることが確認できた。異なるタンパク質の分離が必ずしも成功していないと思われる試料があった。その原因究明と解決が、次年度の課題として残った。
|
今後の研究の推進方策 |
マメ科植物と非マメ科植物の窒素回収能力の比較を継続する。年、気象による違いがあるのかどうかを検証する。初年度の結果は、窒素回収能力は非マメ科植物に比べてマメ科植物で低いという仮説を支持した。しかし、このグループ間差よりも、各グループ内における種間差のほうが圧倒的に大きかった。これは、研究開始時には予測していなかったことであった。そこで、データ全体の分散のうち各要因(グループ、種、個体、年など)の説明力を解析する手法を導入するのが良さそうに思われる。文献サーベイの結果、解析方法としてhierarchical partitioning法が適しているようなので、現在その手法を習得中である。これを複数年のデータ解析に適用する予定である。 窒素回収能力の種間差をうみだすメカニズムを明らかにする。初年度と同じ植物を用いて再現性を確認すると共に、遺伝的背景がより似ている2種(マメ科の窒素固定種と非窒素固定種)を用いることで、窒素固定と窒素回収の関係をより明確にする。 窒素固定の可塑的変化の生態学的意義を調べる。研究開始前に行った予備実験では、材料とする種カワラケツメイが栽培下で十分な量の根粒を形成していないようであった。そこで、まずは複数の窒素固定細菌を個別にカワラケツメイに接種し、形成根粒量と植物個体のバイオマスを測定し、実験に適した栽培条件を探ることとする。栽培条件が確立し次第、カワラケツメイ(窒素固定種)とエビスグサ(非窒素固定種)を施肥リン量を変えて栽培し、「土壌中リンが少ない条件では窒素固定が低下し、窒素回収能力が可塑的に高くなる」という仮説を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の主目的のひとつは、マメ科植物の老化葉からの窒素回収能力を明らかにすることである。この窒素回収能力を量る指標は2つあり、どちらがより適切な指標であるかは今現在も論争中である。本年度は、2つの指標のうちよりシンプルな方の測定を集中的に行った。この分析、解析は順調に進んでいる。調査対象とする種の数を多くできたことは良い点であったが、もう1つの指標の測定が遅れた。次年度には、もう一方の窒素回収能力の指標を測定するために、さらなる葉試料の元素分析を行う予定である。元素分析に必要な消耗品類と、分析補助者への謝金が主な使途となる。
|