研究課題/領域番号 |
17K07554
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
及川 真平 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (90400308)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物的窒素固定 / 窒素利用 / 構造タンパク質 / 代謝タンパク質 / マメ科 |
研究実績の概要 |
マメ科植物25種と非マメ科植物25種の窒素回収能力を比較するため、5月から10月にかけて野外調査を行った。この調査は初年(2017年)度から継続しており、本年度までの3年間で解析に十分な試料量を得ることができた。以下のことが明らかとなった。(1) 調査対象種の葉緑体DNAの塩基配列から系統樹を推定し、窒素回収能力に対し系統関係が与える影響を解析した。統計的に有意なシグナルが検出されなかったため、以降の解析は種を独立として扱うこととした。これは昨年度も実施した解析だが、試料量を増やし結論を強固なものとすることができた。 (2)マメ科植物は枯葉により多くの窒素を残しており、窒素回収能力が低いという仮説を支持した。しかしながら、hierarchical partitioning解析により、全体のvarianceに対する機能型の貢献度はきわめて低く、そのほとんど(90%以上)が種により説明された。(3) マメ科が多くの窒素を枯葉に残すのは、構造タンパク質(細胞壁内タンパク質など)の分解率が低いからだと期待したが、マメ科は構造タンパク質だけではなく代謝タンパク質(膜タンパク質、光合成系酵素など)も多く残していることがわかった。マメ科で代謝タンパク質が多く残ったのは、その分解率が非マメ科に比べて低いからではなく、緑葉に含まれる代謝タンパク質がマメ科で多かったためであった。マメ科で構造タンパク質が多く残ったのは、緑葉の構造タンパク質がマメ科で高かったからではなく、その分解率が低いためであった。このように、マメ科と非マメ科の窒素回収能力の違いが生じるのが、一連の窒素回収プロセスのどの段階なのかが明らかとなった。 (4)窒素固定を行うマメ科植物と、行わないマメ科植物の比較栽培実験を実施した。窒素回収能力、タンパク質組成に顕著な違いが観察されなかった。その原因はまだわかっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「マメ科植物は高い窒素回収能力を進化させてこなかった」という仮説を、多種を対象とした野外調査によって検証すること、そしてマメ科植物と非マメ科植物の窒素回収能力の差を裏付ける生化学的メカニズムを解明することである。現時点で研究開始から3年が経過し、十分な試料を得ることができた。系統解析、要因解析については、専門家の助力を得ることで研究計画立案時よりも良い手法を用いることができたと考えている。この3年間の野外調査に関しては、すでに解析を終え、論文執筆もほぼ完了した。近日中に学術誌に投稿予定である。窒素回収能力の種間差が、分解性の異なるタンパク質の組成比の違いで説明できるかどうかを検証するため、タンパク質組成の分析を進めた。昨年度に明らかとなった実験上の問題点について、検証実験を行い、誤差の可能性などについて十分に検討することができた。以上から、研究は順調に進展していると考える。一方、窒素固定を行うマメ科植物と、行わないマメ科植物の比較栽培実験は、期待していたような種間差が観察されず、その原因が現時点では不明である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 野外調査の結果を論文にまとめ、国際的な科学雑誌に投稿する。(2) 論文が受理され次第、日本生態学会大会において上記成果を発表する。(3) 窒素回収能力の種間差をうみだす生化学的メカニズムを明らかにするためのタンパク質定量実験を実施し、再現性を確認する。結果を論文にまとめる。(4) 遺伝的背景がより似ているカワラケツメイ(窒素固定種)とエビスグサ(非窒素固定種)を施肥リン量を変えて栽培し、「土壌中リンが少ない条件では窒素固定が低下し、窒素回収能力が可塑的に高くなる」という仮説を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関に既設の窒素分析システムに不具合が生じたため、葉試料の窒素濃度分析にごくわずかな遅れが生じ、これに要する人件費(謝金)に未使用が生じた。不具合は解決したため、2020年度中に当該未使用額を使用し、その遅れた分の分析を実施する。
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