本研究課題は、仮説「マメ科植物の窒素回収能力は非マメ科植物に比べて低い」を検証すること、成果の一般化に向けて種間差の生化学的要因を探ることを目指した。 日本の温帯域に広く見られるマメ科植物25種と非マメ科植物25種(合計50種)を対象に、葉の窒素濃度と窒素回収率を野外で4年間測定した。窒素回収の程度は枯葉の窒素濃度で評価し、これを緑葉の窒素濃度と窒素回収効率の関数として解析した。枯葉の窒素濃度は非マメ科植物よりもマメ科植物で高かった。マメ科植物の枯葉の窒素濃度が高かったのは、高い葉窒素濃度を示した種で窒素回収効率が低いためであった。Hierarchical partitioning解析を用いて枯葉の窒素濃度の変異に対する各要因の相対的貢献度を調べたところ、種の貢献度が最も高く、グループの貢献度は小さかった。仮説は支持されたが、窒素固定の有無が窒素回収の主要な決定要因でないことが示唆された。 窒素はタンパク質の主要構成要素であり、葉内のタンパク質の分解が窒素回収の重要な初期ステップである。そこでタンパク質分解を解析することで、マメ科植物の窒素回収能力が低い原因を探った。マメ科植物の枯葉には、非マメ科植物に比べて、より多くの代謝タンパク質と構造タンパク質が残った。代謝タンパク質が多く残ったのは、緑葉の代謝タンパク質濃度が高いことが原因であった。代謝タンパク質の分解率は、グループ間で差がなかった。構造タンパク質が多く残ったのは、分解率が低いためであった。 「窒素固定するマメ科植物では、葉の老化中の窒素回収率は低く、リターには窒素が多く含まれる」という考えは半ば通説化しているが、これまで系統だった解析は皆無であった。本研究課題では、野外調査と適切な統計的手法を用いてこの通説の真偽を明らかにした。新たに、窒素固定の有無以外の要因の重要性も示唆された。
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