本研究では、条件戦略としての雄の代替戦術が見つかっているナミハダニを対象に、環境や状況が雄の繁殖戦術と繁殖成功に与える影響を調べるとともに、母親が経験した環境や状況が息子の繁殖戦術に与える影響について明らかにすることを目的としている。最終年度であるR1年度は、初年度と次年度で得られた結果に応じて、雄密度―雄の代替戦術―母性効果の関係について掘り下げた研究を行うとともに、他の要因の影響についても調査することを計画していた。昨年度のPeter Schausberger博士(ウィーン大学・教授)との共同研究では、同種異個体群の存在や、交尾の有無、交尾相手の戦術といった母親の経験が息子の繁殖行動に影響与えることから、母親が息子の交尾戦術をコントロールする能力をもつことが示された。そのため、本年度は引き続き母親が経験する環境として実効性比の影響を調べるとともに、息子の中でも長男か次男かでは有効な戦術は異なると予想し、同じ母親由来でも兄弟間で繁殖戦術や交尾行動が異なる傾向にあるかを調べた。その結果、母親は経験した実効性比により、局所的配偶者競争理論に従って子供の性比を調節するだけでなく、息子の繁殖戦術や交尾行動をも調節することがわかった。また、兄弟間では同じ母親由来でも交尾行動に違いがみられた。これらの結果から、母親は息子の繁殖成功を高めるよう、また、兄弟間で不要な争いを避けるよう母親が息子の繁殖戦術をコントロールしていると思われた。これら研究結果の発表までに至らなかったが、昨年度までの研究成果に関しては、国際会議での発表や論文という形で公表した。
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