研究課題
本年度は、これまでの22年間と同様に、2019年6月に諫早湾潮止め23年目の有明海奥部50定点および干拓調整池内16定点の採泥調査を継続的に実施した。また、同年7月には東日本大震災から9年目の宮城県東名海岸における底生動物の定量調査を実施し、同一地点・同一方法による震災前10年間と震災後9年間のデータと比較することで、底生動物群集の回復傾向を明らかにした。さらに同年8月には、韓国セマングム干拓においても過去18年間と同様の継続調査を行ない、干拓堤防建設前後の底生動物相の推移を明らかにして、諫早湾干拓のデータと比較した。また、有明海と韓国セマングム干拓の研究成果について、過去20年間程度のデータを総括して、すべての実測データを電子付録として伴う総説1編と原著論文3編を学会誌に公表した。特に、有明海に関する一連の研究成果については、日本ベントス学会誌において特集を組んで他の研究者による原著論文を加えて6編を公開した。これら過去20年間以上にわたる実測データは、今後に実施されるであろう諫早湾干拓堤防の常時開門後の環境と生物群集の変化を解析する際に、開門前の比較可能な基礎的データとして活用されることが期待できる。この他、本研究では2019年4月から2020年3月にかけて毎月1回、静岡県西部の浜名湖奥部6地点において潮下帯での環境・生物の定点観測を行い、アサリ稚貝の季節的な発生調査と採泥試料中の底生動物の種構成の季節変化を明らかにすることで、浜名湖におけるイベント前の通常状態における環境・生物の定量的データを収集した。また、静岡県内の狩野川河口においても、採泥器を用いた底生動物の採集を2019年8月と12月に行うことで、2019年10月の台風19号の豪雨による放水路解放前後の堆積物および大型底生動物の変化を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度も前年度と同様に当初に計画していた有明海・韓国セマングム干拓・宮城県東名海岸・浜名湖奥部における継続調査をすべて実施することが出来た。また、静岡県周辺では、特に狩野川河口(バイパス放水路)において、底生動物調査を実施することが出来た。これらの試料のソーティング作業も順調に進んでおり、過去と同一の方法・精度でのデータと比較が可能となっている。
今後も、有明海・韓国セマングム干拓・宮城県東名海岸・浜名湖・静岡県内河口干潟における採泥調査を今年度と同一の方法・精度で実施することで、大規模干拓や外来種侵入などによる人為的撹乱や、地震や津波などの自然災害に伴う環境と生物の変化過程をとらえ、急激な環境変動に対する生物の応答の普遍性を明らかにする予定である。しかし、新型コロナウィルスに伴う緊急事態宣言により、調査の一部が実施できるかどうか不安材料となっている。もし変更がある場合には、できる限り採集時期の延期により年内での実施を目指し、さらには来年度以降の継続的な実施も視野に入れている。
本研究は平成29年度から開始したが、本研究を申請後に平成28年度が最終年度であった別の科研費事業の延長が認められた経緯がある。そのため、平成29年度に実施した有明海採泥調査および韓国セマングム調査への本事業からの支出が不要となったことで、残された助成金を平成30年度以降の継続調査で使用する予定であるとした。そして、今年度は当初からの当該年度に支払請求をした金額については計画通りに使用したが、上記の経緯により平成29年度に未使用だった金額はそのまま残されたため、それらが次年度以降の使用額となった。これらの助成金は、引き続き次年度以降の継続調査で使用する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (3件)
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