なわばりを持つ藻食性スズメダイ類は、サンゴ礁生態系において主要な一次消費者であり、そのなわばりは底質の11~70%を占めるほど高密度に存在するため、キーストーン種としての役割を持つ。2016年に海水温の上昇による世界的サンゴ大規模白化が発生し、国内最大のサンゴ礁である沖縄県石西礁湖においても約97%が白化、約56%が死滅した。この攪乱に対するサンゴ群集の復元力には、サンゴと競合する藻類を食べる藻食者が貢献するが、なわばりを持つ藻食性スズメダイ類の影響は謎であった。本研究は、沖縄のサンゴ礁域で、白化前の2015年から観察しているスズメダイ6種のなわばり内外を追跡し、大規模白化からのサンゴ群集の初期再生の過程にスズメダイのなわばりが果たす役割を明らかにすることを目的として実施した。 2017年9月と2018年3月、9月、2019年3月、9月、2020年2月に、沖縄本島周辺の瀬底島、恩納村、大度浜において6種のなわばり性スズメダイについて野外調査を行った。その結果、サンゴの大規模白化後に、サンゴの被度は、キオビスズメダイとクロソラスズメダイのなわばり内のみで有意に増加し、なわばり外では減少傾向にあることがわかった。また、なわばり内には、なわばり外に比べ高い頻度で出現する特徴的なサンゴ種が生育していること、大規模白化後に、これらのサンゴはなわばり外では消失したが、なわばり内では被度に変化が見られず維持されることが分かった。白化の影響を受けやすいとされるサンゴ種では、その被度は、大規模白化前ではなわばり外で高く、なわばり内ではほとんど見られなかったが、白化後はなわばり外で減少し、なわばり内で増加した。このことは、スズメダイのなわばり内が白化の影響を受けやすいサンゴ種の回復のための場所として機能している可能性を示唆した。
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