近縁種間で似た環境に繰り返し進出していることがある。比較的迅速に起こる環境適応は、どのような遺伝的メカニズムで起こっているのだろうか。本研究では、多様な気候帯に分布するキイチゴ属Idaeobatus亜属を用いて、全ゲノム比較と交配実験からその遺伝的背景を検証した。
Idaeobatus亜属は、キイチゴ属の多様性を形成する主要な亜属のひとつで、アジアを中心に分化している。分子系統解析から、Idaeobatus亜属は、寒冷な気候から温暖な気候帯への種分化が起こっていること、温帯から亜熱帯への進出が異なる系統グループに見られることが明らかになった。種間交雑は、交配親和性が種間の遺伝的距離に依存し、比較的遠縁な系統間でも種子形成が可能なことが確認された。さらに、温帯性から亜熱帯性に進出した2つの近縁種ペアを含む合計16系統において、リシーケンスを行い、ゲノム上に残された浸透交雑の痕跡を検証した。クオリティコントロールされたSNPsを用いて、祖先多型と浸透交雑の影響を区別するためにABBA-BABA解析を行なった結果、それぞれ異なる系統グループに属する亜熱帯性オオバライチゴから亜熱帯性リュウキュウイチゴの浸透交雑が検出された。日本の多様な気候帯に分布するキイチゴ属の多様性の背景には、先に環境適応を果たした他種からの遺伝資源の供給が関与していることが示唆される。今後、浸透交雑に関わった遺伝子領域の特定と特性についてさらに検証し、環境変化に応答し生物多様性を構築していく種分化プロセスを明らかにしていく。
|