研究課題/領域番号 |
17K07573
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
小沼 順二 東邦大学, 理学部, 講師 (10613838)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 捕食者と被食者 / エスカレーション / 適応進化 / 共進化 / マイマイカブリ |
研究実績の概要 |
生物は生物種間での相互作用によって共進化し、多様な形態や体色、行動を適応進化させる傾向がみられる。特に貝類とその捕食者間では、餌となる貝類が殻を厚くさせる、または、殻口を閉じるように形態を進化させることで対捕食者適応をとげる一方、捕食者側は、硬い殻を壊す上で適した強靭な鋏を進化させる、もしくは、軟体部を殻口から引きずり出す上で適した細長い採餌形態を進化させるケースが知られている。そのような貝類と貝類捕食者間でみられる共進化過程はエスカレーションとも呼ばれ、生態学や進化生物学、古生物学等における重要な研究テーマとして活発に研究が行われてきた。 このような貝類と貝類捕食者間の共進化過程の解明を目指し、本研究では伊豆諸島新島に生息する陸貝に焦点をあてた。伊豆諸島新島は本土と地理的に隔離されていることから固有の陸貝種が多く生息している。近年、この新島に、陸貝を主要な餌資源として利用するマイマイカブリの移入が確認された。新たに出現したマイマイカブリによる捕食圧により、新島に分布する陸貝に対捕食者戦略が進化するかもしれない。特に新島全域に広く生息するシモダマイマイは、殻色に黒色と白色という著しい変異が見られ、捕食者に対する適応の結果、進化したものとも考えられてきた。そこで、本研究では、シモダマイマイを材料に長期的なモニタリング調査を行い、シモダマイマイの殻形態や殻色といった殻形質に対する選択圧の計測を開始した。 予備調査として毎年、野外調査を進めていたが、平成29年度では、さらに十分数の陸貝の採集に成功し、個体の殻計測と殻色の定量化や採集後の個体に対する標識などを行った。また、実験室内で、シモダマイマイを用いた行動実験を行い、樹上性や地上性といった行動の違いの検証とシモダマイマイの殻に関する多変量解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、1年間に10回の野外調査を計画していたが、実際には、初年度1年間に13回、概ね月1回以上のペースで野外調査を行うことがでた。 マイマイカブリの移入が認められる新島北部と新島南部で採集したシモダマイマイを用いて行動実験を行い、マイマイカブリに対する対捕食者適応が生じているかを検証することができた。 また、新島中央部においては、十分数の陸貝の採集に成功し、その大部分に標識を付け、現在、野外環境下における生存率を調べることができている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度、さらに複数回の調査を行い、殻の形質に対する適応度の有無を調べるとともに個体群動態の季節変動や年変動を調べる。また、新島以外の伊豆諸島や本土側の個体群との比較を行い、仮説検証のデータの収集に努める。 殻形質に対する選択勾配を調べ、方向性選択や分断化選択の有無を解析し、野生集団に対する自然選択を検証する。 マイマイカブリの採集を行いマイマイカブリの形態解析を行うとともに、新島島内で採集した陸貝を用い実験室内での捕食実験を行う。 シモダマイマイの形質進化について考察をまとめるために、シモダマイマイの祖先系統とされるミスジマイマイを含めた新島と本土間の陸貝の比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、予定よりも野外調査が順調に進み、当初予定していた以上の野外調査を実施する可能性が出てくると共に、ワークステーション購入の必要性が出てきたため、前倒し請求を行った。結果として、実際、13回の野外調査を実施することができたが、一方で、解析環境を検討していたことも有り、未だワークステーションの購入に至っておらず、当該助成金が生じた。翌年分として請求した助成金と合わせて、ワークステーション等の計算機購入を行うか、もしくは、シーケンスに必要な試薬の購入やシーケンス代金に使用することを予定している。
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