研究課題/領域番号 |
17K07574
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
安部 淳 明治学院大学, 教養教育センター, 助手 (70570076)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 寄生バチ / ゾウムシコガネコバチ / 繁殖戦略 / 交尾行動 / 雌の多回交尾 / 性比 / 性的対立 / 精子優勢 |
研究実績の概要 |
雌の交尾頻度と雄の交尾時の射精量の調節は、雌雄間の精子の輸送をとおし、お互いに影響し合って進化すると考えれる。雌は十分な精子量を確保するため雄の射精量に応じて交尾頻度を調節するだろうし、雄は雌との遭遇頻度や雌の交尾頻度に応じて射精量を決定すると予測される。 今年度は、特に貯穀害虫類の寄生バチであるゾウムシコガネコバチにおいて、雌雄間の精子輸送を明らかにするため、雄と雌の配偶行動を調べた。1つ目の実験では、連続交尾により精子不足になった雄は、一定期間の休息期の後精子量を回復するにもかかわらず、精子不足の状態のまま交尾を続けることがわかった。単数倍数性の性決定機構により、このような精子不足の雄と交尾した雌は、高い割合で雄を産むことを強いられた。2つ目の実験では、一度交尾すると、その雌が十分な精子量を獲得したか否かによらず、雌はその後の交尾受容確率を下げることが示された。さらに、約26%の雌が2回目の交尾を受け入れ、その雌は精子貯蔵量をある程度回復したが、雌の複数回交尾は前の交尾により獲得した精子量や、他の雌との遭遇頻度などの環境状況には影響されていなかった。 これらの結果は、雌雄間における精子の授受をめぐる性的対立によって説明できるかもしれない。雄が精子不足状態であっても、交尾は相手雌の再交尾を妨げ、競争相手の雄の繁殖成功を下げるため、交尾を続けることが有利にはたらくと考えられる。また、雌は交尾相手の雄の状態を認識できない、もしくは、前の交尾によってその後の繁殖行動が制御されるため、雌は再交尾を調節できていないと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたように、初年度にゾウムシコガネコバチにおける雌雄の配偶行動の相互作用を明らかにすることができた。そこでは、当初の精子経済モデルでは想定していなかったが、(1)現実には雄の射精量はダイナミックに変化すること、(2)雌雄間の精子の授受をめぐり性的対立が存在すること、などが示唆された。これらの新たな知見は、今後の理論的解析に組み込まれることにより、精子経済理論を発展させることができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、寄生バチについては文献調査を行い、メタアナリシスを用いた種間比較に関する研究を進める。既存論文から雌の交尾頻度や雄の射精量に関する情報を集積し、系統関係を考慮した種間比較を行う。 2018年度は、キチョウとクリサキテントウの野外調査を進める。精子経済理論を検証するため、細胞内共生最近であるWolbachiaの感染頻度にともない、宿主の性比が異なる複数の個体群を特定する。 今年度に得られた成果と、今後の実証的研究から得られる新たな知見を踏まえ、理論的解析を行う。実際の生物が置かれた環境に即した、より現実的な状況において、精子経済理論を発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の実験は、すでに所有している機器類でおおかたまかなうことができた。次年度以降に、野外調査等が控えているため、繰越金はそれらのために活用する。
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