研究課題/領域番号 |
17K07574
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
安部 淳 明治学院大学, 教養教育センター, 助手 (70570076)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 性比 / 寄生バチ / Melittobia / 繁殖戦略 / 分散 / 血縁度 |
研究実績の概要 |
本課題の研究テーマは、性比などの環境要因が雄と雌の繁殖戦略の共進化に与える影響を明らかにすることであるが、本年度はその原因となる性比の進化に着目した研究を行った。 寄生バチMelittobiaは、極端な雌偏向性比(雄率1-5%)を示し、その性比は同じ寄主に産卵する母親の数に寄らないことから、既存理論の予測に反し、本分野における謎とされてきた。これまで、Melittobiaの性比は、主に実験室内で測定されてきたため、野外環境における性比を測定し、さらに個体間の血縁関係を遺伝マーカーを用いて解析した。 その結果、雌の分散過程に応じて、Melittobiaは2つの性比パターンを示すことがわかった。雌が分散せずに、同じパッチ内の別の寄主に産卵する場合は、これまでの報告と同様に、一緒に産卵する雌の数に寄らず、常に極端に雌に偏った性比で産んでいた。一方、雌が分散し、自身が育ったのとは別のパッチの寄主に産卵した場合は、既存理論の予測どおり、一緒に産卵する雌が多いほど、雄の割合を高めて産んでいることが新たにわかった。遺伝マーカーを用いた解析によると、雌が分散しなかった場合は血縁のある雌が一緒に産卵していた一方、分散した場合は血縁間関係のない雌が一緒に産卵していた。 以上のことから、雌が分散しないと、血縁のある雌と一緒に産卵するため、血縁のある息子間の配偶競争を避けるように、雄を少なく産んでいるものと考えられる。一方、分散した場合は、血縁のない雌と一緒に産卵するため、血縁のない息子間の配偶競争に備えて、雄を多めに産むものと考えられる。雌の分散状況に応じて、一緒に産卵する雌間の血縁度が影響を受けることを考慮した包括適応度モデルを作成し、数理的な解析を行ったところ、今回観察された性比と定性的に合う予測が得られたことから、このような性比は分散過程や雌の血縁度によって調節されていると解釈された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナの影響で野外調査を行うことができなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で明らかになった寄生バチMelittobiaの分散過程や雌間の血縁度による性比調節についても新たに取り組んでいく。分散過程や雌間の血縁度によって性比が調節されていることが明らかになったものの、雌がそれらをどのようなキューをもとにして認識しているのかについては不明なままである。また、野外で観察された性比は、分散過程や雌間の血縁度を考慮して新たに構築した数理モデルの予測に定性的には一致するものの、まだ定量面では大きなずれがある。今後も野外調査を継続し、そこで得られた知見を実験室内でも検討していくことによって、これらの課題についても明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で野外調査が実施できなかったため。
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