本研究では、数学的にはある程度確立された統計手法について、情報量規準、観察モデル、近似ベイズ法を3つのキーワードとし、個体群生態学の数理モデルを状態モデル、野外生物の野外調査過程を観察モデルとする状態空間モデルにより数理生態学と野外生物の観察現場の統合を実践する目標へ向かう1ステップを築くことを目標に置いた。5名程度の研究会、100名規模の研究集会、5名程度で野外調査をしながらの研究議論などを組み合わせ、統計学、生態学、数理生物学の3者を交える場を設けて研究を進めた。 食う食われるの2種系群集動態では、実験系データと野外調査データを統合する状態空間モデルで捕食圧を推定した。地下茎でクローナル繁殖する植物個体群について、推移行列モデルを状態モデルとし、観察モデルを地上部と地下部の情報を統合させられるよう定式化した状態空間モデルを構築した。森林樹木の群集動態では、樹高をドローンを用いて正確に測ることにより、従来の方法がもたらす測定誤差について概ね標準偏差30cm程度の正規分布に従うことがわかった。個体の空間分布を説明する点過程モデルを非定常に拡張した。また、推移行列モデルに関する教科書を、半分を数理モデル、半分を観察過程の統計モデル化にあてる構成で執筆した。 昨年が最終年度だったが、コロナ禍により成果発表の場がなくなったため、1年延期した。2020年12月に森林樹木動態について、つくば市で開かれた統計科学関係のシンポジウムにおいて口頭発表を行った。その前に、そこで用いる観察モデルのデータを増やすため野外調査も行った。以前に投稿し査読・修正を繰り返していた2種系動態モデルのベイズ統計を用いる論文はAmerican Naturalist誌に受理にされた。
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