研究課題/領域番号 |
17K07579
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
真壁 竜介 国立極地研究所, 生物圏研究グループ, 助教 (40469599)
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研究分担者 |
黒沢 則夫 創価大学, 理工学部, 教授 (30234602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 季節海氷域 / 沈降粒子 / 生物ポンプ |
研究実績の概要 |
申請直後(平成28年度)の南極観測において、漂流系観測がトライアルであったこともあり改良前の時系列トラップの固定液にルゴール液を使用した沈降粒子の採集を実施することが出来た。この観測では例年より海氷後退が1ヶ月程度早かったため、海氷融解期の投入は叶わなかったものの、融解後の高生産時期から収束までの期間を捉えており、予定より早くルゴール固定試料を用いた分析方法確立へ向けた分析をスタートすることが可能となった。現在は顕微鏡による沈降粒子試料の分析が終了し、個別粒子のDNA分析に向けて分担者とともに議論を重ねている状況である。また、沈降粒子以外のルゴール固定試料を用いてDNA抽出から分析までの手法検討を実施し、原核生物および真核生物の情報獲得手法をおおよそ確立しつつある。 平成29年度に予定通り時系列セディメントトラップの改良を実施した。改良したトラップは平成30年度観測にて使用する予定であったが、これも前倒しで投入することが出来た。しかし、投入した系自体が海氷の存在下で破損し、GPSブイ以外の全ての機器をロストする自体となってしまった。再設計した耐氷型漂流系による観測は平成31年度に実施予定であり、先行して得られている成果の確認とさらに早い時期のデータ取得によりさらなる研究の進展を目指す。 28年度に取得した沈降粒子の顕微鏡分析から紡錘形粒子が海氷融解後に優占することが明らかとなった。このうち半数におよぶ粒子は珪藻を初めとする植物プランクトンを多量に含み一見動物プランクトン糞粒に見えるが、比較的大きな核を有する渦鞭毛藻の一種であった。これらの動態によっては同時期の物質循環の概念を大きく変える可能性がある。これら糞粒様原生動物の種を特定し、海氷融解後の生物ポンプとそのドライバーの経時変化についての成果に繋げることは可能と判断している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
海氷存在下における漂流系(改良した時系列セディメントトラッフプ)の損失は、漂流系の設計に関わる部分での問題であり、これによって新規のサンプル取得計画が1年遅くなってしまうことで本計画の遂行に大きな問題が生じてしまった。一方で手法の確立は計画以上に進んでおり、かつ、先行して得られたルゴール固定試料から季節海氷域生態系の生物ポンプ機能について大きな役割を持つ可能性がある原生動物の存在が示唆されたことは特筆すべき進展である。現時点で蓄積されている南極海の知見において、このような動物プランクトン糞粒様原生動物の報告は初めてであり、これらの種を特定し、その機能を推定することで、季節海氷域生態系の理解は急速に進むと期待される。 以上のことから29年度のデータを得ることは出来なかったが、個別沈降粒子の解析は28年度(申請直後に)採取された試料を使って順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
改良した時系列ツイントラップの元は既に販売中止となっており、同様のものを一から特注した場合には約450万円の費用が必要であることを確認している。これは本計画において修正可能な範囲では無いため、本年度はルゴール液による沈降粒子の固定が炭素、窒素およびそれらの安定同位体比といったセディメントトラップを使用した研究のルーチン分析項目に影響を与えるかどうかを検討する実験を実施する予定である。この取組は、観測がうまくいかなかった場合を考慮して、日本近海で得られた動物プランクトンを初めとする有機物試料を用いて昨年度から準備を始めている。沈降粒子試料の固定法として一般的なホルマリン固定では炭素の安定同位体比が変化することが指摘されており、炭素、窒素ともに含まないルゴール液による固定ならばこの点を解消する可能性がある。また、上述した原生動物の発見も、ルゴール液によって核が赤く染まっていたために容易に気づくことが出来たことがきっかけであり、本実験の遂行は係留等による長期の沈降粒子観測への応用も期待される。 平成28年度に得た沈降粒子試料を用いて、当初の予定では31年度に実施予定であった個別粒子のドライバー推定を平成30年度から実施する。その際に顕微鏡観察で認められた糞粒様原生動物の核を切り出してDNA分析による種の特定を行うとともに電子顕微鏡を用いて形態学的な観察を行う。これによって海氷融解期の生物ポンプにおいてこれらの原生動物とその他の糞を排泄した動物の役割を明らかにする。 平成31年度の観測で取得する試料の分析は本研究期間中に終了しないが、申請時には想定できなかった糞粒様原生動物の存在を前提として、その役割を把握可能な観測計画を構築することが可能であり、その結果は今後の研究進展に貢献するものと期待される。
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