研究課題/領域番号 |
17K07579
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
真壁 竜介 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (40469599)
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研究分担者 |
黒沢 則夫 創価大学, 理工学部, 教授 (30234602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セディメントトラップ固定液 / 南極海 / DNA / 沈降粒子 / 糞粒様渦鞭毛虫 |
研究実績の概要 |
2017年度に作製したツイントラップを亡失し、本研究課題の範囲で作り直すことは不可能であったことから、中性ルゴール液が従来の元素分析に適しているかの検証が急務となった。検証に用いた試料は2017年10月に日本近海で採取し、中性ルゴール液(5%, 10%)、中性ホルマリン液(5%)と-80°C凍結保存の4つの方法で保存した動物プランクトン試料である。試料は採集から1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の保存期間の後、乾燥、脱脂処理後に炭素、窒素量および両元素の安定同位体比分析を実施した。またこれらの試料は継続して保存し、1年以上経過した後にDNAの抽出、PCRによる18SrRNAの増幅を行った。結果として10%ルゴール液は少なくとも元素分析において凍結保存と有意差が無かったことから沈降粒子試料の保存に対しても有効であることが確認できた。一方、5%ルゴール液は凍結試料との間に有意差があった。また、DNA分析についても使用した固定液中で10%ルゴールのみが良好な結果となった。 今年度は南極観測課題の一つとして、新たに設計した漂流系による海氷融解期観測が予定されているが、上記実験結果を根拠に使用するセディメントトラップ2基の固定液としてルゴール液を>10%で使用すべき旨を進言し、現在準備が進んでいるところである。 2016年度に取得した沈降粒子サンプルについては、DNA分析外注の準備が終わりつつあり、今年度秋には解析がスタートできる予定である。昨年度報告した動物プランクトン糞粒に似た渦鞭毛虫に関して、フラックスの推定が出来ているが、表面構造の電子顕微鏡観察および18SrRNA配列からの分類群決定には至っていない。一方、既報文献の情報整理から、同様の形態を持つ渦鞭毛虫が南極沿岸域の海氷中から報告されているものの、分類学的な報告すら無い状況であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題ではトラップをツインにして、2種類の固定液を使用することで、脆弱なプランクトンの定量やDNA分析を可能にする狙いであった。2017年度観測時に本課題で改良したセディメントトラップを亡失したことで、本研究は大きな狂いが生じたが、2018年度は全ての分析項目に耐える固定液の選定に取り組んだ。ルゴール液が元素分析に使用できることが確認できれば、そもそもホルマリンを使用する必要が無くなるという狙いである。その結果、DNA分析はもちろん、元素分析においても10%中性ルゴール液は凍結試料と差のない優れた固定液であることがわかった。この結果は共同研究者とともに執筆中であり、本年度中の受理を目指している。 個別沈降粒子DNA分析は昨年度掲げた計画より少し遅れているものの、予定よりも早く該当海域の沈降粒子試料が得られたことで、計画を前倒していたことによるものであり、申請時の計画と比べて遅れがあるわけではない。現状で、沈降粒子の分類はおおよそ完了しており、2016年度に取得済みの沈降粒子については糞粒様渦鞭毛虫も含めてDNA分析処理からシーケンス外注をする直前まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の進展状況として、漂流系の亡失から固定液の検証に切り替えてルゴール液の有用性を確認した点は非常に順調である。この結果は今年度実施予定の漂流実験計画に大きく寄与しているとともに、執筆中の論文は極域の炭素循環理解に大きな貢献となるはずである。 この元素分析に力を入れた一方で、個別沈降粒子のDNA分析、および糞粒様渦鞭毛虫の同定・形態学的観察は遅れ気味である。ただし、集中的なDNA分析はもともと最終年度に予定しており、シーケンス外注予算も今年度に集中させてある。今年度は前半のうちにこれらのDNA分析を進める。
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