研究実績の概要 |
2016年度に得られていた沈降粒子試料について18S rRNA遺伝子の解析を行った結果、渦鞭毛虫の寄与は遺伝子で見た場合にも期間中最大で28%に達することが分かった。また、顕微鏡下で採取した糞粒様渦鞭毛虫についても同様の分析を行ったところ、配列は前者で得られたGyrodinium sp.と一致した(学会発表1)。データベース上では本種はGyrodinium rubrumの配列と最も近いことが確認できたが、今後はより長い領域を読むことで確度の高い種同定が必要である。 2018年度に南大洋で実施した5日間の漂流系観測では取り付けたセジメントトラップの固定液に前年度の実験結果(学会発表4, 論文投稿中)を根拠として中性ルゴールを採用した。この観測で得られた沈降粒子の分析を最終年度に実施したところ、深度60 mの沈降粒子中では大型の筒状糞粒とともに多数の糞粒様渦鞭毛中が出現した。これらは2016年度に見られた渦鞭毛虫と形態的に似ており(遺伝子解析の準備中)、同一種である場合、海氷融解後の長期に渡って生物ポンプおよび食物網に貢献する可能性がある。2018年度は2016年度に比べて海氷融解後の生産が高く、このことが渦鞭毛虫の盛期を延ばすことにつながった可能性が高い。 2019年度の南極観測において、本課題の目的であった海氷融解期を網羅する漂流系観測に成功した。砕氷船しらせで12月9日に解氷密接度90%を超える南緯64.3度東経116.0度で投入し、2月16日に南緯64.5度、東経104.8度で回収した。センサー、トラップともに全て正常に動作しており、センサーデータから海氷融解が活発になった時期に浅い層でクロロフィル濃度が上昇し、その後徐々にピーク深度が深くなる季節変動が確認できた。本課題期間中に結果は出なかったが、海氷融解以降に生じる生物ポンプの季節動態解明に向けて貴重な観測が実現できた。
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