研究課題/領域番号 |
17K07580
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
金谷 弦 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 主任研究員 (50400437)
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研究分担者 |
三浦 収 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 准教授 (60610962)
中井 静子 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (40582317)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウミニナ科巻き貝 / 干潟 / 生態系機能 / 東日本大震災 / ろ過摂食 / 種間相互作用 |
研究実績の概要 |
東日本大震災時に発生した津波は干潟の底生動物にも大きな影響を与えた。津波による干潟生物の減少は生態系機能や生態系サービスの大幅な低下をもたらしたことが予想され、その定量的な把握が喫緊の課題となっている。本研究では、干潟生物の中でも特に大きな生物量を占める巻き貝のウミニナ類に注目し、津波によるウミニナ類の減少が系内の物質循環や水質浄化作用にどのような変化をもたらしたのか、失われた生態系機能の回復にどのくらいの時間が必要なのかを、津波前から継続して収集してきた現場の個体群変動データに基づいて定量的に推定することを目的とした。
研究初年度となる今年度は、計画に従い以下の調査を実施した。(1)メタ個体群動態調査:仙台湾近隣の6干潟で、震災前から継続しているホソウミニナの個体群動態調査を実施した。(2)室内飼育実験:ウミニナ科のホソウミニナとウミニナ、キバウミニナ科のカワアイを用いた水濾過実験をおこなった。その結果、ウミニナとホソウミニナ試験区ではコントロール区に比べて明確に濁度が低下していたが、カワアイ区では濁度の低下はほとんどみられなかった。これらの結果と過去の文献から、ろ過摂食行動はウミニナ科の巻貝で特に発達した機能であると考えられた。(3)野外での密度操作実験:宮城県利府町の櫃が浦干潟において、ホソウミニナの密度を操作した2処理区を設定し、彼らの生息が干潟生態系に及ぼす影響を評価した。その結果、ホソウミニナ添加区では他の底生動物の生息密度と生物量が有意に低下した。以上の結果から、震災直後の干潟では、ホソウミニナの不在による「ろ過摂食による懸濁有機物除去能の低下」と「他のベントス種の加入・生残率の向上」が起こっていたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下の研究を実施予定であったが、それぞれについてほぼ予定通りに進行した。
1.メタ個体群動態-現地調査:仙台湾近隣の6干潟(長面浦、万石浦、潜ヶ浦、松島湾奥、鳥の海、松川浦)でホソウミニナの個体群動態(密度・サイズ組成)を追跡するための現地調査を、2017年5月に実施した。各干潟において方形枠を用いた定量採集を行い、生息密度と体サイズのデータを収集した。小型個体については、同所的に生息するウミニナとの判別が困難な場合もあるため、PCR-RFLP法による分子遺伝学的な種同定手法も併用した。また、調査期間中は各干潟にデータロガーを設置し、水温の連続測定を行っている。 2.有機物除去能の評価-室内チャンバー実験:ウミニナ類は剥ぎ取り食者であると考えられてきたが、ろ過摂食も併用することが報告されている。そこで、温度管理した実験室の飼育チャンバー内でホソウミニナを飼育し、炭素・窒素含量既知の餌(培養濃縮珪藻を予定している)を与えてその摂食速度を測定した。2017年度は、ホソウミニナ、ウミニナ、カワアイを用いた実験を水温23℃で行った。体サイズと水温と摂食量との関係については、2018年に温度条件、ホソウミニナの体サイズを変化させた実験を行う予定である。 3.密度操作による生態系機能評価-野外ケージ実験:静謐で波浪の影響の少ない松島湾櫃ヶ浦干潟での野外実験を2017年7月~10月まで行った。金属製のケージを現場に設置してホソウミニナの密度操作を行い、ホソウミニナが「底質-水柱間の物質フロー」「生息場の質」「付随生物群集」へ及ぼす影響を見積もった。2017年度は予備実験という位置づけであったが、ホソウミニナ添加区では優占種であるコケゴカイの密度と生物量が有意に低下するという結果が得られ、一方で底泥のクロロフィル量、泥分、有機物含量への有意な影響は検出されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
メタ個体群動態調査(1)では、各干潟におけるホソウミニナの個体群動態調査を平成30 年度以降も継続して実施する(最終年度まで継続)。室内実験(2)については、初年度の結果を踏まえ、異なる体サイズの個体で追加実験を行い、有機物除去能の推定精度を向上させる。また、1年目の調査で各干潟における水温変動のデータが得られるため、水温条件の選択にはこれらを考慮する。野外実験(3)については、初年度に実施した予備実験で得られた結果をふまえ、実験デザインを修正して実施する。具体的には、実験区のホソウミニナ密度を増加させ、実験終了時期を一ヶ月ほど早める。これは、摂食活動が活発に行われ、底質改変効果が検出されやすいと予想される夏期のうちに実験を終了するためである。
2017年度に得られた野外実験・室内実験の結果については、未処理のサンプルについては分析を進めると共に、得られたデータの解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は1万円以下となっており,ほぼ当初の計画通りに研究費を執行できている。旅費などの計算が当初予想していた金額と若干違う場合があったため,次年度使用額が生じたものである。引き続き、次年度は計画通りに研究費を使用して研究を進める予定である。
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