研究課題/領域番号 |
17K07581
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
中野 亮 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, 主任研究員 (90546772)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | チョウ目 / コウモリ / 超音波 / 捕食者 / 回避行動 / 交尾行動 / コミュニケーション / 飛翔特性 |
研究実績の概要 |
重要な農業害虫を含むハスモンヨトウ近縁種群のうち、シロイチモジヨトウにおける超音波コミュニケーションの有無を検証した。ハスモンヨトウの場合と同様に、シロイチモジヨトウのオスは、性フェロモンを放出するメスに接近した後、超音波を発する。この時、オスの後胸にある一対の振動膜からなる発音器官を破壊、もしくはメスの鼓膜器官を破壊すると、交尾の成功率が低下することを明らかにした。また、無音化したオスがメスへ求愛する際にコウモリの擬似超音波を提示すると、交尾の成功率がレスキューされることも確認した。 小型クリップで腹部を吊るし、飛翔させた状態での超音波に対する忌避行動パターンについては、前年度から計5種(ハスモンヨトウ、シロイチモジヨトウ、アカマダラヨトウ、スジキリヨトウ、クシヒゲスジキリヨトウ)について解析した。その結果、求愛時に唯一発音をしない種であるスジキリヨトウのみが、超音波に対して飛翔の停止をしないことを解明した。 フェロモントラップを用いた野外個体群の飛翔高度の推定に関しては、ハスモンヨトウ、シロイチモジヨトウ、クシヒゲスジキリヨトウが0mから16mの高さに設置したトラップに誘殺された一方、スジキリヨトウは高さ0mのトラップへの誘殺数が顕著に多かった。並行して実施した室内における飛翔速度の測定では、アワヨトウ等の他種と比較して、ハスモンヨトウ、シロイチモジヨトウ、スジキリヨトウ、クシヒゲスジキリヨトウの飛翔速度が遅いことを明らかにした。 これらを総合して考察すると、飛翔速度が遅く飛翔高度が高い種が超音波に対して飛翔停止を示し、かつ種内で超音波を用いたコミュニケーションを発達させていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハスモンヨトウ近縁種群における超音波コミュニケーションの有無は、捕食者であるコウモリの発する超音波に対する忌避行動パターンと明確にリンクしている知見を前倒しで得ることができた。また、ハスモンヨトウ近縁種群5種にとどまらず、ヤガ科に属す他の害虫種7種についても飛翔特性(飛翔速度や高度)と捕食者回避行動および超音波コミュニケーションの関連性を明らかにすることができた。ハスモンヨトウ近縁種群の発音器官が相同であること、報告されている系統関係を考慮すると、祖先種で獲得した超音波コミュニケーションは、低空飛行をするようになったスジキリヨトウでは喪失したことが窺える。 一方、2018年度の後半に機材トラブルがあったため、当初予定していた自由飛翔下での超音波に対する忌避行動の3次元撮影・解析は十分に実施できなかった。当該実験は、ハスモンヨトウを用いて次年度(2019年度)に集中して実施することで対応する。
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今後の研究の推進方策 |
コウモリを回避する戦略として近年報告されている、鱗粉によるエコーの抑制効果についても、ハスモンヨトウ近縁種群での比較・検討を計画している。飛翔速度が遅く、高い位置を飛翔する種は、概してコウモリとの遭遇頻度は高いことが予想される。そのため、低い位置を飛翔するスジキリヨトウなどと比較して、超音波に対するエコーの抑制が見出される可能性がある。 また、求愛時に超音波を発するという予備データをヤガ科のウワバ類で得られたことから、ハスモンヨトウ近縁種群の枠から超越し、ヤガ科を対象とした超音波コミュニケーションの進化過程について、超音波に対する忌避行動パターン、さらには飛翔特性との関連を明らかにし、分子系統解析に着手する予定である。具体的には、フェロモントラップ調査と超音波への忌避行動パターンの解析をウワバ類(タマナギンウワバ、イラクサギンウワバ等)やフタオビコヤガについても実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の購入に際し入札がなされるが、予定よりも低額で購入することができたために次年度使用額が生じた。当該助成金については、次年度(2019年度)に購入予定の昆虫飼育費に充当する予定である。
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