本年度は、チョウ目昆虫の捕食者である食虫コウモリの発する超音波への忌避行動パターンと超音波を用いた種内での音響交信との関連を補強するデータの取得を目指した。そこで、昨年度まで未調査であったヤガ類10種(ツマジロクサヨトウ、カブラヤガ、アワヨトウ、クサシロキヨトウ、イネヨトウ、ヨトウガ、オオタバコガ、タマナギンウワバ、アカエグリバ、ヒメエグリバ)について、成虫の腹部背板を小型クリップで吊るし、飛翔状態での35パターンの合成超音波パルスに対する忌避行動を精査した。忌避行動は「無反応」、「旋回(ターン)」、「飛翔停止(落下)」の3つに分類することが可能であり、アワヨトウ、クサシロキヨトウ、イネヨトウ、ヨトウガ、アカエグリバ、ヒメエグリバの6種は「飛翔停止」を一切示さなかった。一方、ツマジロクサヨトウ、カブラヤガ、オオタバコガ、タマナギンウワバの4種は「飛翔停止」を示した。また、配偶行動に付随する超音波等の発音の有無を確証するために録音・解析したところ、カブラヤガとタマナギンウワバにおいて、オス成虫による交接前の超音波の発音を確認した。これまでの結果と併せると、計15種のヤガ類について、忌避行動として「飛翔停止」をする種(8種)でのみ、交尾時の発音(6種)が認められた一方、「飛翔停止」をしない種(7種)は発音もしないことを明らかにした。このうち、高度別に設置したフェロモントラップと室内での飛翔速度の計測より、飛翔高度の低いイネヨトウとスジキリヨトウは、飛翔速度が遅いものの、コウモリからの捕食圧が低いことで「飛翔停止」をしないことが示唆された。また、飛翔高度が高くとも、飛翔速度が速い種においても「飛翔停止」は示さないことが分かった。ツマジロクサヨトウとオオタバコガには「飛翔停止」と発音のリンクが見られなかったが、両種とも長距離移動することにこの謎を解く鍵が隠されている可能性がある。
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