研究課題/領域番号 |
17K07582
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
濱尾 章二 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, グループ長 (60360707)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 行動生態 / 音声コミュニケーション |
研究実績の概要 |
昨年度の調査から、雌が渡来する前は雄の谷渡り鳴きが不活発で、雌が現われ配偶、繁殖が始まると活発となることがわかった。また、雌がいるなわばりでは谷渡り鳴きが活発に行なわれ、谷渡り鳴きには雌の存在が重要であることが示された。このことから、谷渡り鳴きを活発に行なっている雄は、なわばり内に雌が存在することを周囲に広告しているといえる。雄が子の養育に参加せず、一夫多妻となるウグイスでは、雌にとって既婚雄とつがいになるコストは生じない。谷渡り鳴きを活発に行なっている雄のなわばりは、多くの雌に選ばれ、捕食者に襲われずに繁殖が進行している質の高いものである可能性がある。雌の存在下で行なわれる谷渡り鳴きは、つがいとなる前の雌(潜在的なつがい相手)を誘引する効果があるのではないか。本年度はこの仮説を検証するため、谷渡り鳴きとふつうのさえずりそれぞれを野外で再生し、雌がそのなわばりを訪問する頻度を比較した。 音声再生実験は5月に9日間、6月に6日間行ない、それぞれの期間のおよそ半分は谷渡り鳴きを、残りの半分はふつうのさえずりを再生し、かすみ網を張って捕獲することによって雌の発見に努めた。その結果、再生する音声(谷渡り鳴き/さえずり)によって捕獲される雌の数に違いはなかった。このことは、谷渡り鳴きが潜在的なつがい相手を誘引する機能をもつという仮説を支持しない。また、この音声再生実験中、なわばり所有者以外の雄も捕獲されたが、その数も再生する音声による違いは見られなかった。もしも、周囲の雄が谷渡り鳴きによって雌の存在を知れば、つがい外交尾のためになわばり侵入を図る可能性があるが、データはそれを示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
谷渡り鳴きは、音声信号としての受信者(聞き手)や受信者の行動に起こる変化がまったくわかっていない。受信者としては、谷渡り鳴きのきっかけとなった捕食者や雌とともに、なわばり外の近隣のウグイスも考えられる。これらの受信者候補を絞り込み、機能に関する仮説をひとつひとつ検討する方向で研究を進めている。今年度の結果は、谷渡り鳴きが、それを鳴く雄のなわばり周辺のウグイス雌雄に対する信号である可能性が低いことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の観察によるデータ収集から、谷渡り鳴きは捕食者、ウグイス雌のいずれもがきっかけとなって起こることがあることがわかった。しかし、大半の谷渡り鳴きではきっかけが不明であり、捕食者、雌のいずれがきっかけとなることが多いのかなど、定量的な情報を得ることはできなかった。今年度の音声再生実験の結果をあわせて考えると、谷渡り鳴きは目の前にいる雌あるいは捕食者に対する信号である可能性が高い。そこで、谷渡り鳴きの機能に迫るためには、雌と捕食者それぞれに谷渡り鳴きが行なわれる頻度や、その際の雄の行動(接近する/回避するなど)を詳細に記述することが有益と考えられる。そのため、ウグイス雌とタカの剥製を提示し、同時に音声を再生して雄の行動を記録する野外実験を予定している。 また、次年度に向けて、飼育下のウグイス雌やタカに対して谷渡り鳴きを聞かせ反応を調べる実験についても、計画していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品、その他(レンタカーガソリン代等)が予想よりも安価であったため。
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