研究課題
本研究では、北部九州・山口西部地域の遺跡から出土した弥生時代人骨を用いて、そのゲノム情報を明らかにし、分子人類学的解析から渡来系弥生時代人の遺伝的背景の解明を目指した。具体的には、北部九州・山口西部地域の様々な遺跡から出土した弥生時代人骨のミトコンドリアゲノムならびに核ゲノムの塩基配列を、次世代シーケンサをもちいて決定することとした。ミトコンドリアゲノムに関しては、古人骨から抽出したDNAからライブラリを作成し、目的のDNAを選択的に抽出するターゲットエンリッチメント法により濃縮後、シーケンシングをおこなった。北部九州・山口西部の遺跡から出土した古人骨8個体についてミトコンドリアゲノム分析をおこなった結果、5個体は99%以上をカバーし、そのうち3個体に関しては高い蓋然性をもつ完全長配列を得ることに成功した。これにより、ハプログループだけでなく、ハプロタイプをも決定することに成功した。得られた塩基配列を弥生時代に相当する2500年前、2000年前の中国山東省から出土した古人骨の分析結果と比較すると共通のハプログループが観察され、渡来系弥生人の起源を探るための中国大陸の重要性が示された。次に、核ゲノムの塩基配列を得るために、山口西部の土井ヶ浜遺跡の弥生時代人骨から抽出したDNAをもちいて、ショットガンシーケンスをおこなった。その結果、ヒトゲノムの約25倍量となる768億のヒト由来DNA塩基配列データを得ることに成功した。得られた塩基配列データ(リード配列)をヒト参照配列にマッピングした結果、リード配列は各常染色体に偏りなくマッピングされ、バイアスのないデータであることが示された。そして、常染色体上にマップされた既知のSNPは170万以上であり、今後の数理解析に十分量の配列データを得たことが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
概要に記載した通り、申請書における計画以上の成果が得られている。
得られた全ての古人骨の配列データと既知のヒト配列データとを合わせて数理解析をおこなう。具体的には、弥生時代の遺跡から出土した古人骨の個体間の類縁性や、現代日本人を含む東アジア人、古代中国(山東省)人、縄文時代人との関連性を調べる。また、核ゲノム情報をもちいた解析を進める。
1年目の研究が予想以上に順調に進み、研究経費の効率的な使用となった。集団データとしての価値を高めるためには、より数多くの古人骨を分析することが重要である。そこで、試薬代(物品費)として次年度へと繰り越した。次年度の使用計画としては、分析のための物品費、研究成果を発表するために必要な出張旅費、論文掲載にかかる費用等に使用する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Annals of Human Biology
巻: 44 ページ: 652~658
10.1080/03014460.2017.1358393