研究課題/領域番号 |
17K07595
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
矢口 智恵 日本医療大学, 保健医療学部, 准教授 (00612300)
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研究分担者 |
藤原 勝夫 金沢学院大学, 人間健康学部, 教授 (60190089)
清田 直恵 金沢学院大学, 人間健康学部, 講師 (90559189)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 注意 / 姿勢制御 / 一過性床移動 / 体性感覚 / 視覚 / 誘発電位 / 脛骨神経 / 電気刺激 |
研究実績の概要 |
前年度までに、床移動課題中に体性感覚誘発電位(SEP)を記録する方法を確立した。そこで今年度ははじめにSEPを誘発するための神経への電気刺激に向ける注意量の違いが、SEPのどの成分に表れるかを明らかにした(実験1)上で、床移動課題中の体性感覚情報へ向ける注意量をSEPで定量化できるか否かを、姿勢制御課題の難易度を変えて体性感覚情報の重要性を操作することで検討した(実験2)。いずれの実験でも、SEPを誘発するために、右内果後方の脛骨神経に、持続時間が0.2 ms、頻度が2 Hz、強度が運動閾値の1.3倍の電気刺激を負荷した。 実験1では若年健常成人9名に対し、視覚刺激と電気刺激を同時に負荷し、いずれかの刺激にのみ(注意集中)、あるいは両方に(注意分散)指反応する3つの反応課題を実施した。電気刺激に注意を集中した場合と比べて、両方の刺激に注意を分散した場合には、刺激に対する反応時間が有意に遅くなり、SEPのP60-N80振幅は有意に小さくなった。これらのことから、神経への電気刺激に向ける注意量は、P60-N80振幅に反映されることが示唆された。 実験2では若年健常成人13名に対し、一過性後方床移動を床移動後の圧中心の移動範囲の制限がない条件とある条件(ない条件の70%を超えない)で行った。検者の合図の3-5秒後のランダムなタイミングで床移動を行い、その開始時点まで電気刺激を負荷した。制限がある条件では、姿勢制御が難しくなり、床移動後の下腿三頭筋の活動開始が有意に早期化し、SEPのN130振幅が有意に増大した。N130成分は第二次体性感覚野由来(Kany and Treede, 1997)の成分であると考えられている。したがって、床移動課題が難しい場合の体性感覚に向ける注意の影響はN130成分に表れること、および注意は電気刺激自体ではなく、高次の体性感覚の処理に向く可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、今年度までに以下のことを明らかにする予定であった。①体性感覚情報に向ける注意配分量を、SEPを用いて定量的に評価する方法を確立する。②①の方法を用いて姿勢制御課題の難易度を変えた場合の体性感覚情報への注意の向け方の様相を検討する。③姿勢制御と視覚認知の二重課題実施時の各感覚情報への注意分散と姿勢制御との関連を、若年者を対象に検討する。現段階までに検討できたのは、②までである。したがって予定よりも達成度は、やや遅れていると考えられる。 次年度は、③の姿勢制御と視覚認知の二重課題実施時の各感覚情報への注意分散と姿勢制御との関連を検討していく。本研究では、最終的にこの関連が高齢者でどのようになるかを明らかにすることが目標である。そのため、はじめに若年健常成人を対象として、これを検討するための方法を模索して確立し、基本的な知見を得ることを目的とする。今後、その方法や知見を踏まえて、高齢者の二重課題実施時の注意分散と姿勢制御の関連を検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、若年者を対象として、姿勢制御と視覚認知の二重課題実施時の各感覚情報への注意分散と姿勢制御との関連について検討する。検者の合図の3-5秒後のランダムなタイミングで床移動を行う。床移動の強度は、それを負荷した際に姿勢保持が難しくなる、すなわち床移動後の圧中心位置が最前傾姿勢保持時の位置付近となるように、被験者ごとに速度と振幅を変えて設定する。床移動の開始時点まで右内果後方の脛骨神経に、持続時間が0.2 ms、頻度が2 Hz、強度が運動閾値の1.3倍の電気刺激を負荷する。視覚刺激提示用に、被験者の63 cm前方に19インチの画面を設置する。背景にピッチが視角の1°×1°で大きさが24°×32°の白黒の格子模様を提示し、500 ms間隔で反転させる。画面中央には、直径1°で灰色の固視点を常に提示し、固視点の周囲に円刺激を、2秒間隔で100 ms間提示する。円刺激には直径2°の標的刺激(提示確率20%)と1.8°の非標的刺激(80%)を用い、ランダムな順で提示する。以下の3条件を行う:①床移動を行わず、視覚の弁別課題のみを行う(視覚への注意集中)、②視覚の弁別を行わず、床移動のみを行う(体性感覚への注意集中)、③床移動と視覚の弁別の両方を行う(視覚と体性感覚への注意分散)。各条件でのSEPと視覚誘発電位(VEP)を記録し、注意分散時の各感覚情報への注意の配分の仕方と、床移動に対する姿勢制御や視覚刺激に対する反応との関連を検討する。 上記の計画を基本とし、はじめに体性感覚と視覚への注意分散の様相を検討できる方法論について、検討する。その方法論が確立した後に、若年者を対象として基礎データを得る。これらのことが実施できた後に、高齢者の二重課題実施時の注意分散と姿勢制御の関連を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
基本的には、今年度の交付決定額を使い切るような計画で研究を遂行していたが、2019年度は、例年参加している国内学会が地元開催であったこと、当初予定していた国際学会へ参加しなかったこと、および共同研究者との打ち合わせを地元開催の学会時やオンライン環境を利用して実施したことにより、旅費を使用しなかった。また、被験者の中にはボランティアで実験に参加して下さった方もおり、予定よりも被験者謝金の支出が少なかった。これらのことから、今年度の使用額が予定よりも少なく、差額が次年度使用額となった。 2020年度も上述したような検討を行うために、実験で使用する消耗品の購入や被験者への謝金の支払いに費用が必要となる。研究分担者との研究打ち合わせや情報収集・成果報告としての学会参加のための旅費も必要となる。それゆえ、これらの費用として予算を使用する。さらに今年度に生じた次年度使用額を利用して、データ分析をより効率的に行うために、解析ソフトの購入も行う。
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