花芽形成を司るシロイヌナズナのFLOWERING LOCUS T遺伝子のダイズオルソログであるFT2aおよびFT5a遺伝子の開花後の茎頂の栄養生長から生殖生長への相転換に関わる機能ならびに長日条件下での落花現象の機構を解析した。過去2年間の解析で、開花後の茎頂の相転換にはFT5aが関与し、転写因子FDタンパク質のダイズオルソログFDL6とFT5aの複合体がAP1オーソログの発現誘導を介して伸育性遺伝子Dt1の発現を抑制し、主茎の伸長を停止することが明かとなった。これらの成果はJournal of Experimental Botanyで公表した。また、長日条件下で頻繁に生じる落花現象は、柱頭上での花粉の未発芽が原因であり、柱頭を覆う脂質からなるペリクルが花粉発芽抑制に関与することが示唆された。最終年度である本年度は、フラボノイド類に焦点を当て、柱頭および花柱におけるフラボノイドの分布ならびにフラボノイド類の蓄積量をUPLC/MS/MSを用いて解析した。その結果、FAAで固定した後テクノビットに包埋して作成した雌蕊組織切片のDPBA染色では、ペリクルを含む柱頭部にフラボノイドの蓄積は認められなかった。一方で、固定せずに柱頭部をDPBA染色後直接実態顕微鏡で観察したところ、花蕾が分化した日長条件に関わりなく、柱頭部に強い蛍光が観察された。したがって、柱頭に含まれているフラボノイド類は固定の過程で流出したと考えられた。7種類のフラボノイドの定量解析の結果、アピゲニンとジヒドロケンフェロール配糖体が長日より短日条件に由来した柱頭に多く蓄積されていた。今後、これら物質の花粉発芽における役割、ならびに、これら物質の生合成に関わるFT2aおよびFT5aの役割の解析が必要である。
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