研究課題/領域番号 |
17K07601
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松村 英生 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (40390885)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ニガウリ / 性決定 / 全ゲノム配列 / QTL / 次世代シークエンス解析 |
研究実績の概要 |
ニガウリにおける性決定(雌花、雄花形成の決定)機構の解明を目的として、雌性型系統(雌花率100%)と混性型系統(雌花率3%)のF2集団を材料としたマッピングによる原因遺伝子の探索を行った。本年度は長鎖シークエンス解析によるニガウリ全ゲノム配列の再解析を行ない、そのデータを利用した性決定関連の候補遺伝子探索へ向けた解析を進めた。ニガウリ系統OHB3-1の全ゲノム配列について国立遺伝学研究所における先進ゲノム支援のサポートによりPacBioシークエンス解析を行ない、de novoアッセンブリにより全長293Mbのコンティグ配列を得た。さらに以前に作成を行ったRAD-seq解析に基づく連鎖地図に対してこれらのコンティグを配置した結果、全体の93%のゲノム配列が11連鎖群に配置されたPseudomoleculeの構築に成功した。今までに構築したニガウリゲノム配列では雌性型形質が座乗すると推定された領域をカバーできていなかったが、本解析データでは同領域を含むコンティグ配列が得られた。そこで改めて上記の雌性型系統、混性型系統およびそのF2集団から雌性型を示す20個体および混性型を示す20個体のゲノムDNAをバルク化したサンプルのリシークエンスを行い、QTL-seq解析により雌性型遺伝子座領域を絞り込んだ。さらに他のニガウリ混性型系統のゲノム配列についてもリシークエンスを行い、雌性型形質との連関を示す遺伝子上の多型について絞り込みを進めた。またこれとは別の雌雄比率に関わるQTL領域についても候補となる遺伝子のアミノ酸置換を伴う多型を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニガウリ性決定に関わる2つの遺伝子座(雌性型遺伝子座、雌雄比率QTL)の連鎖地図上のマッピングは既に昨年度までに実施できていたため、これらの原因遺伝子(候補遺伝子)を同定することが次の目標であった。その基盤として今までに独自に解析したニガウリ全ゲノム配列データを得ていたが、全体のカバー率および平均コンティグ長などが不十分であった。そこで先進ゲノム支援のサポートによってPacBioシークエンスによる全ゲノム配列データを改めて整備して候補遺伝子同定へと進める研究を行った。 本年度は、染色体レベルでのニガウリ全ゲノム配列データの構築、ゲノム配列からのQTL-seq解析による雌性型遺伝子座領域の絞り込み、雌雄比率QTL領域に位置する候補遺伝子(多型)の絞り込みまでが得られた成果である。ニガウリ全ゲノム配列データについては本研究において各性決定関連の候補遺伝子同定に利用できるだけでなく、他の形質に関わる遺伝子の同定やニガウリの遺伝的多様性の評価などの研究に貢献できる高品質なゲノム情報を提供できると考えている。雌性型遺伝子座の領域については遺伝的マッピングは今まで進んでいたが該当するゲノム領域が得られていなかったために遺伝子同定の障害となっていたが、ゲノム配列データの充実によりそれが可能になり具体的な遺伝子同定へと進むことができるようになった。雌雄比率QTLの候補遺伝子についてはアミノ酸置換を伴う変異を持つ候補遺伝子が見出されたが、さらにサポートする実験解析データが必要である。 これらから、本年度は目標であるニガウリの雌雄比率決定に関わる遺伝子を実際に同定することが現実的に可能な段階に近づいたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得たニガウリゲノム配列情報と連鎖解析を基にして見出した雌性型遺伝子座領域、雌雄比率QTL候補遺伝子について他のニガウリ系統における多型と形質(性型)の連関解析などを進めて候補遺伝子(多型)のサポートデータを得る。雌性型候補遺伝子については、ニガウリおよび他のウリ科植物における組織や花芽生育段階での発現解析を行う。本来はニガウリにおいて遺伝子機能解析を実施することを計画していたが、形質転換の実施が困難な状況であるため、異種植物での過剰発現などから性決定への関連について推測を行うことも試みる。雌雄比率QTLの候補遺伝子については、遺伝子産物(タンパク質)の大腸菌もしくはin vitro翻訳での生産を行ってニガウリ系統間で見られる配列多型とタンパク質の機能(活性)との関係を解明する。また雌性型候補遺伝子と同様に異種植物を利用した機能解析系の利用も試みる。
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