研究課題
イネ極穂重型品種の低登熟性を改善する可能性のある登熟関連遺伝子座OsAGPS2 (APS2), OsAGPL2 (APL2) およびOsSUT1 (SUT1) を対象として,これらの機能検証を,準同質遺伝子系統(NILs)を用いて行うことを,本研究全体の目的としている.そのため,これら3座上にすべて良登熟型アレル(アレル2)をもつ品種密陽23号とすべて非良登熟型アレル(アレル1)をもつ品種アケノホシの交雑後F4世代まで3座すべてヘテロ接合体のものを選抜してきた.平成29年度には,上記F4個体の1個体に由来する自殖次世代(F5)を展開した.その結果,この世代では外部形態や出穂日はほぼ類似し,穎花数/穂も約200粒程度であって,上記3遺伝子座に関しては予想される8種類のホモ接合遺伝子型をもつ個体すべてを,それぞれの遺伝子型を判定できるCAPSマーカーによって選抜した.これら個体に由来する次世代以降(F6以降)の系統は,上記登熟関連遺伝子座に関する極穂重型でのNILsであるとみなせる.来年度以降は,このNILsを用いて良登熟型アレルの効果を検証する.すでに育成済みの,上記登熟関連3遺伝子座の全てにおいて良登熟型と考えられるアレル2をもち,かつ穎花数/穂が最大で約300粒に達する超極穂重型品種(仮称)ツブマサリの収量や登熟特性を,成長解析や収量試験等で検証した.その結果,ツブマサリは他品種に比べ穎花数/穂は飛躍的に増大したが,登熟歩合が低く特に多収とは言えなかった.これは,出穂後の初期にNARの低下に伴いCGRが低いことが原因であり,このような結果はまた,最終窒素追肥の時期と出穂期の間隔が大きく,出穂初期に窒素不足になったためと考えられた.来年度以降は,ツブマサリに関する最終窒素追肥時期の登熟,収量に及ぼす影響を検証し,ツブマサリの収量ポテンシャル発現に向けた栽培法の検討を行う.
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究において,上記のように登熟関連3遺伝子座での良登熟型と推察されるアレル(アレル2)と非良登熟型アレル(アレル1)のすべての8種類の組み合わせ(111から222まで)をもち,かつ極穂重型であるNILsを,計画どおりに開発することができた.これらのNILsは世界的にも類をみない極めてユニークな材料である.来年度以降に実施予定である,3登熟関連遺伝子座に由来するタンパク質に関するウェスタンブロット分析を行う予定であるが,平成29年度においてタンパク質の抗体を入手し,予備実験の結果,実施可能であることが判った.したがって,研究全体の進捗状況はおおむね良好である.
来年度以降の実験では,平成29年度の実験で開発した極穂重型でかつ登熟関連3遺伝子座でのすべてのホモ接合体遺伝子型を網羅したNILsを,それらの登熟程度の測定,出穂後の発育胚乳における3遺伝子座の定量RT-PCRによる遺伝子発現の解析,ADPグルコースピロホスホリラーゼ活性の測定,および本酵素小サブユニット2と大サブユニット2およびショ糖トランスポーター1のウェスタンブロット分析による定量に供する.これによって,各遺伝子座におけるアレル2とアレル1の間の違い,すなわちアレルの主効果とともに,3座上アレル間のエピスタティックな相互作用が明らかになる.これまでに,極穂重型ではない同様のNILsを用いて,どの遺伝子座でもアレル2はアレル1よりも有意に登熟を向上させること,特にAPS2座上のアレル2は他の2座のアレル2よりも登熟向上効果に関して上位に働くことが推察されている.来年度以降の実験では,このような主効果と相互作用が,極穂重型の遺伝的背景下でも認められるか否かを検証し,その発現機構についても遺伝子発現,タンパク質発現から解析する.超極穂重型品種ツブマサリの低登熟性改善に向けた栽培技術的アプローチについても,窒素代謝等の観点をも加味しつつ追及する予定である.
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Rice
巻: 11 ページ: 6
10.1186/s12284-018-0201-x